118.可愛い服で上機嫌だったのに
日が暮れる前なので、買い物に出かけた。ワンピース分の支払いは、商隊主が負担する。予算の心配なく、可愛い服を探した。裕福な平民や下位貴族の普段着用として、質のいいワンピースが店頭に並ぶ。その中で目についた店に入った。
入り口から混雑しており、数人の男性が外で待っている。どうやら中で買い物をする女性の付き添いや護衛のようだ。私は腕を組んだベスを連れて、悠々と店に入った。ほぼ女性ばかりの店内だが、恋人同士で腕を組んだ姿も見受けられる。
「どのような服をお探しですか?」
カップルは見栄を張って、高い服を買うことが多い。その意味で、私達に声をかけたのは正解だろう。金髪に緑の瞳の私、灰銀の髪に青い瞳のベス。顔立ちもあまり似ていない。父親似の私と、母親に似たベスを兄妹と判断するのは難しかった。
「レースやフリルをたっぷりと使った可愛い服はあるか? 色は柔らかな黄色やピンクがいい」
「お待ちください」
すぐに服を探しに行った店員が戻るまで、店内をぐるりと見まわした。髪飾りやアクセサリーがいくつか展示されている。店としては高級店に分類されるのだろう。服を山積みにして選べ! が一般的な平民の店と違い、きちんと飾られていた。展示する服の数は少なく、奥から持ってくる方式のようだ。
「こちらなどいかがでしょう」
尋ねるような口調だが、持ってきた服に自信があるらしい。店員の思惑通り、ベスは一目で気に入った。組んだ腕をぎゅっと引き寄せ、可愛いと呟く。
「これがいい?」
「ええ、これがいいわ。でも、ほかにも素敵な服があるかも」
お兄様と呼ばないベスに合わせて、恋人のように振る舞った。私達の様子を見て、店員が次の服を持ってくる。あっという間に周囲に服を着たトルソーが並んだ。囲まれて、まるで舞踏会のようだ。
「これ、それから……」
「こっちはルカにも似合う色よ」
ベスに言われて、柔らかなオレンジの絹に目を止める。珍しい色だが、とても美しい。ルカは白い毛皮に緑の瞳だから、反対色のオレンジは映えるだろう。想像して口元が緩んだ。
「では、この生地で仕上げてほしい服がある」
ルカの寸法を身振り手振りで伝えて、追加注文とした。選んだ服はオレンジのワンピース一着とピンクのアンサンブルが一式、それからミントの上着だ。ルカの服も注文したので、少し予算オーバーだった。問題ない範囲なので支払い、領収書と追加注文の受取書をもらう。
宿へ届けてくれるよう頼み、店を出た。サイズ調整が必要なので、購入してすぐ着用は出来ない。二人で歩き出したところで、後ろから声がかかった。
「君たち……ちょっといいかな」
こういう呼びかけは、たいてい厄介ごとなんだが? 眉根を寄せて振り返った。




