116.難所を通過する秘策あり
早朝に準備を整え、昼前に難所となる隘路を抜ける。商隊主は何らかの情報を掴んだのか、焦り気味だった。それでも明日の出立にしないのだから、何らかの時間制限がある荷を積んでいるのだろう。傭兵団の面々も、表情が強張っていた。
襲ってくるのが確定として、隘路の手前では襲わないはずだ。逃げる際に自分達が不利になる。それくらいなら出口で待ち伏せが効果的だった。ただし、その場所は王都側から見えるらしい。応援が来る危険性を考慮すれば、岩や倒木を落として立ち往生したところに飛び掛かる方法か。
あれこれ考えながら、ちらりと左手側の崖を確認した。右手側はやや低いので、襲うならこちらからだ。だが物を落とすならどちらでも構わない。さて、どうしたものか。両側を気にする私に、アロンソが馬を寄せた。
「右側はうちの連中が走ってる。危険なのは左だ」
「なるほど。ならば、あれは危険なのでは?」
左前方、不自然に丸太があった。それも道と並行ではなく直角に見える。あのまま押せば、周囲の壁にぶつかりながら落ちてくるだろう。運が悪いと、馬車と一緒にぺしゃんこだ。
「レグロ!」
「ああ」
呼びかける大声に、すぐ反応したレグロが前に飛び出す。直後、落下した木材が……不自然な軌道を描いて止まった。いや、街道に落ちてはいるが……?
「レグロが網を広げながら走ったんだ」
得意げに種明かしをするのは、アロンソだ。手前に残って網を広げるのは、昨日一緒に話した顔に傷のある男だった。つるんと禿げた男はほかにいなかったので、間違いない。似たような髪の薄い奴はいたが、かろうじて後ろ頭に毛が残っていた。
網に絡まることで、大きく弾んで馬車に当たるのを防ぐ。さらに網を引くことで、丸太を片付けやすくした。岩だった場合は網から手を離せばいい。先に一人抜けていれば、道を塞がれても王都へ助けを呼びに飛び込める。なんとも考えられた作戦だった。
「これは見事だ」
こういった手法もあるのか。持ち運びが楽で効果が高い。先頭を走るレグロの危険度は高いが、それ以外のリスクはかなり抑えられていた。
「だろ? アバスカル傭兵団に伝わるやり方だ。この街道の護衛は定期的に発生するからな」
荷崩れした時に、馬車に被せて使っても便利だと違う使い道も口にする。アロンソの楽しそうな笑顔に、不安が消えた。
「お兄様、ルカが起きたわ」
ベスに注意され、背負った籠の蓋を開ける。中から顔を見せたルカは、首に髪飾りの輪をつけたままだった。気に入っているようで、外そうとしない。
「ルカ、少し走るか?」
いつもと同じ口調で尋ねる。朝が早かったので、籠に放り込んで出かけたが……本人の目が覚めたなら問題ないだろう。きゃう! と元気に応じ、ルカは高さを気にせず飛び出した。




