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可愛い弟を溺愛しながら生きていく  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく


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115/128

115.今夜こそ奢るぞ!

 噛んだ後のルカは目に見えてしょげてしまい、モニカ達の陰に隠れてしまった。厩舎で呼ぶも、こちらを見るのに近づいてこない。ここは任せろと、モニカが鼻で私を押しやった。ベスによれば、取られると思って噛んだが反省しているのでは? となるらしい。


 別に怒っていないし、噛んだ瞬間に力を緩めてくれたから痛くもなかった。そうか、気に入らないならと外そうとしたのが嫌だったのだな。


「今夜こそ、恩人に奢るぞ!!」


 厩舎から宿に戻ると、一階の食堂の奥を占拠した傭兵団が盛り上がっていた。酒は飲んでいないのに、どうしてここまで騒がしいのか。おかしくなって、肩を震わせて笑う。


「お嬢ちゃんも一緒に、ほら」


 見事に禿げ上がったおっさんに手招きされる。顔と頭に傷があるが、どちらも浅い。何より前に傷があるのがいい。敵に背を向けなかった男の証だった。傭兵は乱闘状態でもペアを組んだ相棒と背を預けて戦う。背中を切られた傭兵は、逃げる途中で攻撃されたと笑いものにされるのだ。


「いい傷だな」


 にやりと笑って褒めると、禿げた男は明るく笑った。


「おう! 相棒を守った自慢の傷だ。あんたさんもいい傷だな……これは庇い傷だろ」


 誰かを庇う際、斜めに背を反らして間に体を滑り込ませる。できるだけ傷を避けながらも、武器が使えない状態で誰かを庇った。傷の深さを一瞬で判断し、男は「見事なもんだ」と頷く。顔の上が細い線傷なのに、下へ向かって深くなる。


 まるで見ていたように理解する男と話が弾み、隣のアロンソがむすっと唇を尖らせた。


「なんだ?」


「恩人の労いなのに、俺がほとんど話せてない」


「加わればいいだろ」


 さらりと促せば、ぱちぱちと瞬いた後で会話に口を挟んだ。傷の話から武勇伝、師匠の話に波及して最後は家族の話題に落ち着く。傭兵をしている連中は、半数は出稼ぎだ。残り半分は家族がいない。盗賊に襲われて孤児になったり、そもそも親の顔を知らなかったり。


 それでも家族と呼べる存在はいる。懇意にする常宿(じょうやど)を経営する老夫婦、傭兵団の仲間やその家族、孤児院を運営する神職者。様々な繋がりで、人は孤独から解放される。その話は千差万別、聞くこちらの経験値を上げてくれた。


「酒は飲まないのか?」


「明日は一番厄介な難所があるからな」


 アロンソが残念そうに呟いた。王都の手前、さほど高くない山が一つある。その脇を抜ける道が細いのだ。上から岩を落として攻撃された事件もあり、今は別ルートの舗装が進んでいた。まだ使えない道ではなく、山の脇を抜けるルートしか通れない。


「明日は王都で酒盛りだ!」


 わっと歓声が上がり、傭兵達は残った料理を平らげていく。明日の酒盛りの話題を肴に、アロンソやレグロは料理を追加注文した。まだ入るとは恐れ入った。

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