114.ゆったり過ごせる時間を楽しむ
次の街まで、何も邪魔が入らなかった。途中の休憩でも傭兵達の緊張は緩い。この辺りは領主がしっかりしており、舗装が行き届いていた。整備された道は馬車の速度が上がる。危険を冒して、この街道を狙う必要がないのだろう。
「それもありますが……お気づきですかな? この街では民の表情が明るいでしょう」
商隊主に指摘され、なるほどと頷いた。到着した直後から、商人への挨拶が続く。中には「妻に贈る櫛が欲しいんだが、売っているか?」と声をかける者もいた。生活がカツカツではない証拠だ。贈り物をする余裕があり、人々が殺伐としていない。
つまり、周辺の集落も含めて盗賊になるメリットがないのだ。領主の運営一つでここまで違うのだと感心した。黒鹿毛に関しては、あとから同族の護衛が連れてくる。数日休ませて薬を塗り込めば、傷の痛みも消えるだろうと聞いて安心した。
貴族であると明かし、この馬を預けると告げて金貨を握らせた。それも出立前の人目がある場所で、だ。宿の主としては、護衛を雇ってでも馬を守るはず。もし連れ去られたら、はたまた売り飛ばそうものなら、一族郎党道連れに自殺するも同然だった。
預かった貴族の私財を損なえば、宿としての信用も地に落ちる。半日もすれば、ウルティアの者が追い付くと言い含めて別れた。私にはモニカがいるし、ベスもブリサがいる。だからすぐに馬は必要ないが、名馬には違いない。父上に似合うと思ったんだが。
少しばかり残念だが、キロス王国に飼い主がいるなら合流させるべきだろう。やはり主従一緒がいちばんだからな。
この次はキロス王国の王都だった。ようやく目的地に届く距離まで来た。長い旅だったが、それもまた楽しい。ベスを思う存分着飾らせてやりたいな。貴族のごてごてしたドレスではなく、余裕のある平民が特別な日に身に着けるフリルやレースのついたワンピースがいい。
盗賊がなく道が整っていたことで、午後の早い時間に街に入った。当然だが、明日の朝までの時間は長い。ベスも到着する頃には目が覚めて、髪飾りを強請った。一緒に店に入り、あれが似合う、これがいいと時間をかけて選ぶ。
「お兄様、ありがとう!」
「とても似合っているぞ」
にこにこと笑顔を振りまき、ベスが周囲を虜にしていく。抱っこしたルカが、きゃう! と元気に存在を主張した。
「わかっている。ルカにはこれを巻いてやろう。なくすなよ?」
結んだ髪に絡める形で使う布の輪を、ルカの首輪代わりに嵌めた。緩い気がするが、取れるほどではない。不思議そうなルカは、赤に白と銀のラインが入った布を前脚で引っ張る。
「取れてしまうぞ、大丈夫だ。とても似合っているし可愛い」
褒めたら満足して前脚の爪を外した。だが気になるのか、時々前脚で触れている。引っ張りはしないが、苦しいのか? そう尋ねて外そうとしたら指を噛まれた。モニカ達ほど意思疎通できるようになるのは、まだ先の話だな。




