113.キロス王国への顔つなぎ
朝食後、商隊は出発した。街を出て、移動の最中に彼は馬の価値を切々と話し始めた。どう利用したら得か、キロス王国との繋がりに至るまで。
「仲介をしたいという意味か?」
暗い時間に見たから、黒鹿毛とはわからなかった。気づいていたら、商隊の遅れがあっても同行したと主張されたところで、話をぶった切る。延々と聞いて楽しい話でもない。
「若様は遠慮がない」
ウルティア一族出身なら、本家の子女が「姉弟」であると知っている。にもかかわらず、外部の目がある場所ではきちんと「兄妹」として扱う如才のなさが、なんとも商人らしい。
「対価をもらえそうだな」
「宿代は出しておりますし、食事は傭兵の奢りでしょう。何が必要ですかな?」
「キロス王国でベスにドレスを買ってやりたいんだ」
多少の金は持たされた。だが旅に直接関係ない部分は、出費を絞るつもりだ。その浮かせた金でベスにドレスを買うつもりだった。宿代の代わりに護衛を求められた際に応じたのも、それが理由だ。
もしベスのドレス代が浮くとしたら……ルカにも可愛い服を仕立ててもらおうと欲を掻いた。素直にそう話せば、商隊主は御者台で大笑いする。
「若様は人心を得る才能がおありですな。よろしい、私が出しましょう。それも二着分です」
太っ腹な発言に、返答を迷う。裏があるのでは? と首を傾げて黙った。
「ご安心ください。若様を欺くほど、命知らずではございません」
「それもそうだな、では商談成立だ」
馬の上から手を伸ばして握手しようとしたが、高低差も手伝い難しい。背中にルカを入れた袋がなければ、もう少し傾いても平気なのだが……。彼も肩を竦めて終わりなので、こちらも無理をしないことにした。この程度で口約束に落とせるほど、ウルティアの名は軽くない。
「傭兵団の方が、若様を気にしておられますなぁ」
「そうか? 私は気にしない」
気にならないというより、意識する気がない。にやにやと笑った商隊主の顔が引きつった。悪いからかい方をするつもりだったようだ。こちらが意に介していない対応なので、行き場を失った言葉が消えていく。
きゅぅ。背負った袋の中で鳴き声が聞こえ、モニカがぶるんと頭を振る。ぽんぽんと叩いて落ち着かせ、ルカの袋を前に抱き直した。大人しく走るモニカが速度を落とす。袋の口を開ければ、ぽんと鼻先が覗いた。白いルカが顔を見せ、緑の瞳で周囲を見回す。
「走るか?」
きゅう! 元気な返事があったので、モニカが足を止めた。一度降りて、ルカを離す。元気よく走るルカを手招きし、水を飲ませた。その間にも商隊は進んでいく。少し離れてから、追いかけるためにモニカへ飛び乗った。
ベスは……馬の上で器用にうたた寝している。ブリサが器用にバランスを取っているが……起こしたほうがよさそうだ。




