111.馬の世話は自分でする
翌朝、様子を見に行くと……ルカが裏返って寝ていた。イビキをかいて寝転がる姿は、あまりにもひどい。野生動物だった頃の警戒心はどこへ捨ててきたのか。無防備な腹を撫で繰り回しながら、一言くらい注意しようか迷う。
髪の先をはむはむと噛む気配に顔を上げれば、モニカがふんと鼻を鳴らした。
「まだ子供だから許せ? そうだが……」
ブリサもぶるるんと唾を飛ばして力説した。
「お前達が守ってくれるなら大丈夫か。もう少し大人になったら注意するとしよう」
言葉が理解できるわけではないが、なんとなく雰囲気で汲み取ることはできる。ぽんぽんと首筋を叩いて、了承を伝えた。ルカを怒らないと理解し、ブリサはまた草を食み始める。モニカは水を飲むが、ぽたぽたとルカの上に垂れていた。
「ルカ、濡れるぞ」
両脇に手を入れて、少しだけ手前に引く。もぞもぞと動いたものの、また眠ってしまった。これは夜行性の本能に従っているのか。はたまた、夜遊びしすぎて翌日の昼寝が長いとみるべきか。悩む私の選択肢としては、袋に入れたルカを背負っていくか、また荷物に籠で積むか。
盗賊が出ることを考えれば、背負っていたほうがいいか。盗まれたら困るからな。こんなに可愛いのだ、きっと高額で売り飛ばされてしまう。よしよしと頭を撫でて、立ち上がった。
「おう! 朝早いな。もう少し寝ててもいいと思うが」
「彼女達の世話は私の仕事だからな」
愛馬の世話は手を抜かない。言い切った私に、話しかけたアロンソが髪を掻き乱した。何か言いたいことがあるが、どう伝えるか迷っているような。そう判断して待てば、彼はちらりと軍馬を見た。しっかり休んでいる黒毛の馬は、がっちりした体をしている。じっくり観察して、アロンソは溜め息を吐いた。
「いい馬だな」
「ああ。もちろんだ、私の眼鏡に適うくらいの名馬だぞ」
自慢したくなって胸を張る。実際、どこかの国の王族や将軍クラスの愛馬でもおかしくない。年老いた感じはないし、やはり奪われた可能性が高かった。問題は持ち主が生きているか、殺されたか……。
「馬はどうする?」
「すぐに受け取りに来る人がいる。問題ない」
心配してくれたようだ。声に滲む感情を判別しながら、アロンソの出方を待つ。
「それならいいが……その。今日はあの子と荷馬車に乗っていったらどうだ?」
なるほど。寝ていないと考え、私達の心配をしたのか。荷馬車なら転げ落ちても大ケガはない。中へ転がっても、積み荷に当たる程度だろう。だが落馬となれば、骨折や出血を伴う傷を負う。傭兵団のボスらしい大きな体を丸めて、ぶつぶつと理由を並べる男の肩を叩いた。
「心配は有難いが……私とベスは寝ていても馬から落ちない」
ウルティア一族と言いかけて、言葉を濁した。




