110.予想より早く到着した
結局、盗賊に襲われることなく順調に進んだ。到着したのは夜半、まだ空は深い色をしている。夜明けの紫より早く入ったが、宿はどこだろうか。街の入り口を守る門番に伝言が残されていた。青い馬の看板がある宿らしい。
探すまでもなく、大通り沿いにあった。入り口に明かりがついているので、軽くノックしてみる。すぐに開き、宿の人が受け入れてくれた。馬を裏に運び、厩舎の一角でブラッシングを済ませる。たくさん労い、モニカとブリサに新人馬の世話を任せた。
ぶるるんと鼻で鳴いて承諾するモニカにリンゴを与える。隣でブリサもパンをもらっていた。新人馬に何を与えるべきか迷うが、今回はリンゴにする。ちょうど手元にあったので、差し出して食べさせた。鼻筋に綺麗な白い流星が入っている。
「いい子だ、明日は歩かないから安心して傷を治してくれ」
じっと見つめた後、馬はぶるんと一鳴きした。本当に賢い馬だ。裏口から宿に戻り、一通の手紙を認める。それを届けてくれるよう頼んだ。こういった街道沿いの宿では、専門の伝令がやってくる。彼らは元騎士など信頼があって堅実な者から選ばれた。
伝令達は定期的に行き来するため、手紙と報酬を渡せば運んでくれる。このシステムを利用し、手前の街まで追いついた一族の者へ、馬の保護を依頼するつもりだった。バレないと踏んだのか、いつもより距離が近い。言及しないが、ベスは気づいていないのだろうか。
「え? 知っているわよ。わざわざ後ろについてきて、また手前の街に引き返すじゃない」
やっぱり理解していたと安心する。一般的な貴族なら、跡取り候補二人を同時に外へは出さない。身の安全が確保されないからだ。にもかかわらず、私がベスと出かける許可が出た。守り抜けと厳命されたも同然だが、父上達も保険を掛けたかったのだろう。後ろに護衛をつけた。
「あの軍馬は彼らに任せよう」
「そうね、お兄様。もう一度傷を消毒してから寝るのよ」
あふっと欠伸をしながら、びしっと言い切ったベスが横になる。わかったと返事をして、素直に傷を洗った。消毒のために薬草を貼り付ける。上からしっかりと布を巻いた。ベスにもらったハンカチは、保存用にバッグへしまう。
宛がわれた部屋はそれなりに広く、三人分のベッドがあった。ルカを部屋に入れてやりたいが、宿の人には迷惑だろう。厩舎に置いてきたが……えらく興奮していた。騒いで馬に蹴られなければいいが。そんなことをつらつらと考えながら目を閉じる。
眠りはすぐに訪れ、あっという間に深みまで引きずり込まれた。




