109.二人と一匹、三頭の暗い散歩
ルカが聖獣だとしても、それは人側の理屈だ。獣同士では意味がない。以前、群れから追い払われていたルカを拾ったので理解はしていた。だが……思わぬ方向でルカが役に立つ。
「おい、遠くへ行くなよ!」
軍馬の応急処置を済ませ、ゆっくりと歩かせて移動する。時折立ち止まるが、水を与えると頑張ってくれた。迷惑をかけていることを自覚しているような軍馬は、黒い艶やかな毛並みをしていた。最悪は盗賊が取り戻しに来るかと思ったが、現時点でその様子はない。
持ち主の盗賊はケガで動けないか。いや、この軍馬自体が盗品の可能性もあるな。奪った馬を使っていたが、振り落とされたか? 賢そうな子だ。優しい綺麗な目をしている。
痛みはそれほど強くないようで、傷を強く圧迫するだけでよかった。時折、草を食む。薬草として有名な草を選んでいるのは、隣のモニカが誘導する為だ。手綱を持たなくても、速度を合わせて歩くモニカとブリサは、薬草を見つけると立ち止まって促した。
殺菌効果のある薬草で、痛み止め効果はほぼない。人が使う場合は葉の汁が出るまで揉み、汁と葉を傷口に押し当てるのが一般的だった。食べたことはないが……それも効果があるのか。動物は無駄なことはしないと教わった。きっと馬には意味があるのだろう。
昼間寝た分だけ元気なルカは、周囲を走り回っている。何かを見つけては唸って叩くので、気になって一度覗きに行った。蛇を追い払っていたらしい。昼間は出てこない蛇だが、夜は活動的になる。噛まれる心配が減るのは良いことだ。
「ルカ、えらいぞ」
誇らしげに顎を反らす白い勇者に、噛まれるなと忠告するのは無粋だろう。軍馬はまた歩き出し、モニカとブリサが守るように両側についた。手綱を掴んで引っ張る必要もなく、私とベスはのんびりと散歩感覚で夜の街道を進む。
盗賊が出れば返り討ちにするが、昼間にあれほど損害を出したのだ。数日は出てこられない。その間に我々も次の街に入ってしまうから、遭遇する心配はほとんどなかった。
「なんだか、盗賊の遭遇率が高くない?」
「荷物にハープがあっただろう。あの脇にバイオリンや横笛もあった。意外に高価な品も積んでいるのではないか?」
盗賊も闇雲に商隊を襲うわけではない。事前に周辺の街で情報を仕入れる。あの商人はこんな荷を積んでいる、貴族からの注文品を持っているらしいぞ、など。護衛の数が多いことも、高額商品を持っている証拠と見做された。つまり、我々はいいカモと思われていたわけだ。
「いっそ、二人だけのほうが早かったわ」
「ベス。同じ意見だが……父上達のことだ。何か意味があるのだろう」
諦めろ……口調から感じ取った私の本音に「お姉様は甘いんだから」とベスがぼやく。すぐに「お兄様だったわ」と彼女自身が訂正して笑い飛ばした。




