108.同情は命を縮めますぞ
アルダ王国との今後を見据えたうえで、キロス王国を味方につける。それだけの話なのに、どうして道中でこんなに苦労するのか。荷馬車へ押し込んだルカを回収しながら、溜め息を吐いた。
きゅーん。不満そうに訴えるルカは、自分だけ隔離されたのが不満らしい。だが出かける時間になってもまだ眠そうで、途中ではぐれる心配があったから籠に入れたんだが……。あの時は満足そうに丸まって眠ったじゃないか。
やれやれと思いながらも、ルカの喉や首周りを撫でてやる。すぐに機嫌が直ったルカは、荷馬車の周りを走った。元気だと訴えるので、モニカ達を呼んできてくれとお願いしてみた。頼まれたのが嬉しいようで、尻尾を振りながら全力疾走する。
「あの獣は白いし、狙われそうだな」
「だから隠したんだが、正解だった」
モニカやブリサを連れて、途中で別の馬も合流させる。なかなかに馬の扱いが上手だ。まさか狼が馬と会話できるはずはないが、説得しているのかと思うほど器用に集めてきた。弓を作る際に切り離した荷馬車の馬も、仲間が群れになっている様子に戻ってくる。
馬は基本、臆病だからな。仲間の群れに自然と集まる習性がある。戻ってきたモニカを確認し、傷がないことに胸を撫でおろす。隣ではブリサを撫でるベスが「大丈夫だったわ」と微笑んだ。可哀想だが、一頭の馬が後ろ脚を傷つけたらしい。
走れない馬は処分するのが倣いだ。矢がかすめた切り傷程度なので、ここが街なら問題なかった。だが……街はまだ見えない。この馬を連れて移動すれば……時間をロスする。一息に楽にするつもりの商隊主だが、ふと思いつきを口にした。
「この馬をくれないか? 次の街までは私達が連れていく。明日の朝までに合流すれば問題ないだろう」
「……同情は命を縮めますぞ」
商人の一人が忠告するも、私はからりと明るく笑った。
「同情ではないが、損をする気がないだけだ」
意味が分からないのか、商人はそれ以上追及しなかった。わかっていないようだが、傭兵団や荷馬車を引いた馬ではない。実際、荷馬車に馬を取り付けた商隊主が首を傾げた。この馬は、盗賊側が連れてきた子だな。きちんと手入れがされており、おそらく軍馬としての経験もある。
「え? 連れていくのか……危険だぞ」
傭兵団は護衛の仕事を受けているため、私達を置いていくしかない。商隊を守って街へ入り、戻ってきたら……と計算しているようなので、ばっさり切り捨てた。
「夜明け前には街に入る。宿がわかるようにしておいてくれ」
きゃう! 足元のルカが大きな声で鳴いた。自分がいるから大丈夫? ずいぶんと大きく出たものだ。寝ていた分だけ、しっかり働いてもらうぞ! ルカ。




