101.美女の定義に当てはまらない
兄妹を装った姉妹ということで、納得したらしい。旅はどうしても物騒だ。盗賊ならば金で見逃される可能性もあるが、誘拐は別だった。貴族の子女、護衛なしの旅となれば目を付けられやすい。数回失敗しても諦めずに追ってくるだろう。
貴族という生き物は高く売れるのだ。実家に身代金を請求してもいい。逆に敵対する貴族に売りつければ、法外な値をつけてくれるはずだ。貴族の血筋を奪おうとする連中もいる。子を産ませてしまえば、その子を使って家の乗っ取りを企むことも可能だった。
危険を承知しているから、親は子に護衛をたっぷりとつける。姉妹で商人と同行となれば、何らかの事情を勘繰られる状況だった。ましてや他国の親族を訪ねると口にした。虐げられ、逃げたようにも見えるのだ。
「誤解させただろうな」
「せっかくだから利用したらいいわ」
ベスは欠伸しながら、梳かした髪を三つ編みにしていく。慣れた手つきで作業を終えると、ぽんと背中に放った。ベッドに寝転び、溜め息を吐く。
「お姉様を口説こうだなんて、百年早い」
「ん? アロンソか。あれは貴族へのお世辞だな」
からりと笑って「美女はない」と言い切る。振り返ってじっと私を見つめ、ベスは大きく肩を落とした。それから吸い込んだ息を長く吐き出す。
「自覚がないみたいだけど、お姉様は美人だよ。頬の傷だって貴族の結婚でなければ、気にしない人が多いの。自覚したほうがいいんじゃない?」
「自覚してどうする。襲われても叩きのめせるぞ」
さらりと受け流した。美人? 美女? そんな表現が似合わないことは、私が一番知っている。ベスは身内だし、ウルティア一族の気質を強く受け継いでいた。だから、傷があっても好ましく感じる。一般的に、男性は顔が整った大人しくて胸の大きな女を選ぶのだ。
アロンソも当然そうだろう。傭兵稼業は厳しい分、報酬が高い。傭兵や騎士が色街で女を買う話はよく聞いた。後腐れなく遊べるのに加え、激しい戦闘があった際は気持ちの高揚に任せて発散する。男とはそういうものだ、と知っていた。
色街の女性達は、たおやかで美しい。自分の身が商品であると知っているから、高く売るために磨く。そんな美女の集団を見慣れた男が、男装した顔に傷のある女を「美女」と呼んだ。どう考えてもからかわれたか、お世辞だ。
決めつけて言い切った私に、ベスが「お姉様って本当に残念な人」と嘆いた。意味は分からないが、可愛くないという意味なら、同意する。




