100.戦ったからバレたのか
「顔の傷か? そのくらいなら化粧で綺麗に隠れるだろうし、その傷はカッコいい。誰かを庇って正面から受けたんじゃないか? 名誉の負傷ってやつだ」
からりと笑って、アロンソは言い放った。あまりにぴたりと言い当てたので、驚く。アルバ国王を守って受けた傷だった。もちろん致命傷にならぬよう、慎重に距離や位置を図って受けた傷だが……。
女性の顔に傷、これは王家に負い目を持たせるのに最適だと思った。いずれ上手に使うつもりだったが、その前に婚約破棄騒動で離脱した。結果として使い道のなくなった傷だけが残されたわけだ。それを「カッコいい」と言われたことに、妙な後ろめたさが生まれる。
「顔で判断したのか?」
性別を顔だけで? 尋ねた意図を汲み取ったアロンソは、うーんと唸った。どう説明したら伝わるかを悩んだあと、指を折りながら説明を始める。
「顔は最後の確証を与えただけで……上手に振る舞っていたんだが、歩き方だな」
指が一つ折り曲げられる。
「歩き方が普段は肩から歩くのに、戦いのときは腰から動いた。あれは女性の踏み出しだろ。それと骨格だ。肩の入り方が男と女で違う」
肩の可動域が男女で違う。突きを繰り出したとき、動きが男性ではなく女性だったと言いながら、また指を一つ折った。
「一番は喉かな。声は低いんだが、喉仏がない男なんて見たことないから」
食事をするときに正面から見て気づいたとか。それまでは「細っこい貴族の若君はごつごつしていないんだな」と思った程度らしい。
説明を受ければ、なるほどと納得する部分ばかり。旅をするだけなら、気づかれなかったかもしれない。だが、同じ土俵で戦ったなら……嫌でも注視される。こちらの実力が低ければ足を引っ張るし、人質にされたら面倒だと考えた。
動きを見て濃厚な疑いを持ったアロンソは、飲食する私の顔や喉仏の有無を間近で確認した。思ったより使える男らしい。
「旅の間は女性であることを隠したい。口にしないでくれ」
命じることは可能だが、この男の場合は逆効果になりそうだ。そう判断して頼むように言葉を選んだ。後ろでベッドに腰かけたベスが溜め息を吐く。
「妹さんを守るために男装したのか? 大切にしてるんだな」
アロンソの言葉に、こちらがきょとんとした。ああ、そうか。ベスが男性だとバレる仕草や振る舞いはなかった。ベスは戦闘に参加していないし、まだ成熟していないため喉仏も目立たない。そのうえ、着ている乗馬服は首まできっちり閉じていた。
「ああ。大切な妹だ。手を出すなよ」
にやりと笑って互いに頷き合い、アロンソは退室した。この後、リコの解雇が言い渡されるだろう。朝までは宿に置いてやっても、出かける際に置いていかれる。それがいい。あの腕と性格では、傭兵で生き残れる可能性が低いのだから。




