99.リコに価値があるなら別だが?
「君は男か女かで、対応を変えるのか? 命のやり取りをする場面だぞ」
むっとしてアロンソの言葉を切った。これ以上人前で「女性だ」と連呼されては困る。怒ったように顔を顰めたことで、彼もまずいと思ったらしい。きゅっと唇を横に引いた。傭兵団の同僚達がリコを拘束し、私から引き離す。余計な発言をしないよう、口にも布が突っ込まれた。
「すみません、俺が剣を奪ったから大丈夫だと思ってて」
謝罪するレグロに首を横に振った。彼は当事者ではないし、何より武器を奪うという立派な仕事をした。お陰で、長剣に対応せず済んだのは大きい。もしリコが長剣で攻撃していたら、手加減しなかった。確実に命を奪っていただろう。
食事をする場で、生臭い事件を起こしたくないからな。
「いや、助かった」
にやっと笑い、ベスへ腕を差し伸べた。左腕のほつれた袖を確認するベスが、苦笑いする。
「これは私の裁縫の技術では無理よ。専門家に頼んで頂戴」
「なら買い替えるとしよう」
ベスと話しながら、我慢して口を噤むアロンソを手招きした。
「悪いが部屋まで来てくれ、その阿呆の話に結論を出したい」
唸るリコをちらりと見て、アロンソが頷いた。素直に後ろをついてくるので、宛がわれた部屋へ招く。レグロが同行し、扉の前に立った。万が一を考えたのだろう。我々がアロンソに危害を加えられたと騒いで、彼を断罪する可能性もないわけじゃない。
逆に本当に危害を加えそうになったら、レグロが飛び込んで止めるつもりだろう。だが話が漏れるのは困るので、扉に鍵をかけずに外で待ってもらった。
「さて、今回の騒動だが……アバスカル傭兵団はどう対処する?」
「リコの再教育では無理か?」
甘い男だ。無理だと自分でも気づいているくせに、悪足掻きしようとする。こういう男は周囲を巻き添えにして、最期の瞬間に後悔するんだ。いくつも事例を知っているから、首を横に振った。彼がボスとして切り捨てられないなら、私が捨てさせる。
「貴族に危害を加えた、その事例があるのに連れ歩くのか? アバスカル傭兵団の規律はそこまで甘いのか。過去の信用をすべて捨てるほど、リコに価値があるなら別だが?」
「……すまない、彼は解雇する」
規律では解雇が妥当のようだ。こちらの話はここで終わりだった。リコに剣技の才能はないし、もし残しても近いうちに盗賊に切り殺されて終わる。最悪のパターンなら、盗賊に捕まって何らかの要求を通す餌にされるかもしれない。どちらにしろ、傭兵団にとって害だけだった。
「本題に入る。私の性別を口に出すのはやめてもらおう。それが今回の件でリコの命を奪わない対価だ」
「女性なのを、隠しているのか?」
「この姿を見て、女性だと思う奴のほうが少ない」
言い切った私を凝視して、ゆっくりと頭からつま先まで確認し……アロンソは首を傾げた。




