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最凶の人生~思考盗聴器と共に生き、本当に一度死んだ男~  作者: 時田総司(いぶさん)
7章 天国から地獄へと墜落した大学編

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5 誰もが言う――周りは自分ほど、自分のコトなんて見てないよ

 時田はある日から『呼び掛け』を毎日行った。

 しかし成果は出ず、日々だけが過ぎていく。寮の食堂で時田の事を話しているらしき人物が居た。その話に耳を傾けてみる。


「戦争がどうとか言ってるじゃん」

「ああ」

「あれな」

「何と言うか……」

「うん」



「具体性が無い」



「!?」



「そうだな」



(具体性だって!? 相手の作戦、武器や軍隊の人数などの戦力、敵の本拠地がリアルタイムで分かる、とか明らかに具体的だろ! うんって言ってるやつも短絡的過ぎるし……俺の通っている大学の人間はこんなに頭が悪かったのか……)


 時田は頭を抱える。


(でも!)


 一人だけでも、たった一人でもあのURLを送ってくれれば全ては解決する。一人だけでいい。その気持ちが、時田を楽にした。それにしても、


(『具体的に』かぁ……)


 時田は呼び掛けの文章を読み直し、ひと手間を加えてみた。


 そして――、


『――。どうか、協力をお願いします。今から、B棟2階の階段前で待ちます。大学職員の方は話し掛けて頂ければ幸いです』


「ふー」


 誠意を見せなければ――、な。


 時田はただメールを待つのではなく、学校の敷地内に立ち、大学の職員が来てくれるのを待つ、という行動に出た。


(工学部系の大学の職員なら、この事態を異常だと察してくれるはず……)



 ――、


 B棟2階の階段前――、期待して周りを見てる。


(目が合った! もしや……!!)


 目が合った学生は、視線を他所に向けて歩いて行った。


(……)



 ――、


(どれだけ待ったかな? 1時間は粘ったはず……)


 時田はスマホを見てみた。


(……! まだ、20分……)


「ズキン!」


 春の午後、冷たい風が体温を冷やし、膝が痛くなってきた。



「帰るか?」


(いや……)


(あと……、30分……!)



 ――、


 膝の関節が軋む。日が傾いていた。


(まぁ、初日はこんなものか……)


 その日は何の収穫も無く、寮へ帰った。



 翌日――、


 再び呼び掛けを行い、前日の場所で立ち、人を待った。小一時間経っただろうか。一人の職員が時田に近付いてきた。


(おっ、これは!)


 時田は期待に胸を躍らせた。


 しかし――、


 その職員は時田の近くを通り過ぎて、振り向きざまに唾を吐き、言った。




「障害児が……!」




(えっ……?)



 明らかに汚いものでも見る様な、冷たい視線――。憎悪に満ちた、吐き捨てられたセリフ――。


 時田は耳を疑った。明らかに時田に対しての言葉、時田の境遇も知っているであろう人物が、『障害児』と吐き捨てたのだった。




「何だと!? それでも、教育機関の職員かぁ!?」




 そんな言葉は、口から出ることもなく、頭に浮かぶでもなく――


(今……何て……?)


 そこに1人だけ、時間の止まった世界にいる様だった。


 周囲の足音だけがやけに響いていた。

 冷ややかな視線を感じる。誰かが時田に指をさしている気がした。


(……!!)


 驚きは次第に怒りに変わっていった。


(大学の事だって……考えているのに……!)


 時田は『呼び掛け』で確かに言った。


『――、学生なら、どのような学校に通っているのか? 等、様々な疑問も上がるはずです。その学校が、工学部系の大学だったら? 人々は学生を使って生体実験をしているのではないか? と考える可能性もあります。ひとまずは不気味な機械です。私達の所属する学校に悪いイメージがつくかも知れません。』


 大学に、マイナスイメージがつかないよう、思考盗聴器を早く使用不可能にする様、動くつもりなのに……!


(ここの職員は何も分かっていない……!)


 誰の為――?

 思考盗聴器が蔓延すると――

 パニック――

 学校を守る――

 危険――

 他の被害者も救う――

 



 いいや――、




(もう、知った事か……!)



 寮に向けて歩き出す。


(思考盗聴器を止めるのを、やめにするか? 諦めて、ただひたすら耐えてみるか……?)


 もう、学校の為だとか、先輩の就活に支障が出ない為だとか、考えられなくなった。


(自分の人生だ……もう人の為に行動するのを、止めよう……)


 B棟2階の階段前を、睨み付けた。


(もう、助けない……学校、日本――、潰れてくれ)


 時田はその日から、呼び掛けを止めた。




『騙された!』

『面白くなーい!!』




 音声送信は厄介だ。耳を塞いでも聞こえてくる甲高い声。講義に支障が出る。イライラは募る。



『ソレサイテー!!』



「ぶはっ!」



『ダマサレテー!』



(何だ?)


 音声送信の女は急に、奇声を上げ始めた。


(今のは、ちょっと面白かったぞ……騙されたいのか?)



 音声送信――。


『誰かの声が聞こえる』『頭の中で不快な音がきこえる』といった現象で、何者かの声や発生源の不明な音が聞こえる(聞かされる)ことを言う。



 不快な罵声? 時田は遂に吹っ切れて、頭がおかしくなったのか? 音声送信を馬鹿にして、楽しんでいる?


(あっはは。『ダマサレテー!』には、不覚ながら、笑った。あんなに、苦しめられてきたのに……。そうか、馬鹿にしてみよう。そういう風にとらえれば、案外、自我を保てるかもしれない)


 音声送信の被害に、苦しみ、笑い、耐えているうちに、ゴールデンウィークという、長期休暇が訪れた。この休みでは、時田は実家に帰ることにした。多分、ちょっとした気分転換にはなるだろう。

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