3 思考盗聴、逆用開始――その文字を奪え……!!
『どうしてこんなにも思考盗聴器が流通したのか?』
時田は、その謎が解けた気がした。
『思考盗聴連結ブログ』
“それ”は思考盗聴器のディスプレイのソースを、インターネット上に貼り付けている、そんなサイトだった。
(これの所為だ……!)
ノートパソコンに映ったその文字は、思考盗聴連結ブログがどんなものかを物語っていた。
『明らかなオーバーテクノロジー。そんな思考盗聴器がなぜこんなにも簡単に流通したのか? それは――』
(携帯……?)
『携帯電話づてに思考盗聴連結ブログなるものが流通したからだ』
(URLを送るだけで……?)
『サイトのアドレス、URLをコピーして、メールか何かで送る、それだけで思考盗聴器のディスプレイは簡単に拡散されていく』
(だからか簡単に広まったのか――!!
高校にHが簡単に思考盗聴器を持って来たのも、教習所で至近距離で思考盗聴器を使われたのも、全て思考盗聴連結ブログによるものだったのか! 小型で、手のひらサイズで持ち込み可能だったのはそれが携帯サイトだったからか!!
でも!
謎は全て解けたわけではない。思考盗聴器……。ディスプレイがある、までは予測できたが、そのソースをネット上にアップできる……? そんなに簡単に……? 思考盗聴器はパソコン状になっているのか……?)
思考盗聴器に対しての謎は尽きない。
(! でも……これって……)
時田は、何か思いついた。
(逆に利用できる……!)
時田は学校の講義が終わると、小走りで寮の部屋に戻る。
(よし! やるぞ)
時田はパソコンのキーボードを敲き始めた。
(まずは……)
『私の名前は時田総司、通信工学科専攻、学籍番号は20170です。私は今、とある事情を抱え、困っています』
(どう表示されているかは知らないが、こうやって呼び掛けて、証拠を掴む!)
自分が予想していたよりかは、筆は進んだ。
殴り書きと添削を繰り返すこと、小一時間後――。
「できた!」
『呼びかけ』の文章が完成した。時田は試しに、読んでみることとする。
『私の名前は時田総司、通信工学科専攻、学籍番号は20170です。私は今、とある事情を抱え、困っています――
『この機械は、私の意思では止められません 』
『この機械を止める為、協力してほしいのです』
『機械を止めると、大学側にとってのデメリットを防げます』
『だから、証拠が欲しいのです』
「ここだな」
時田の指が、止まる。
(これが届けば――
初めて、“反撃”になる)
『その、思考盗聴器のディスプレイのソースをコピーした、サイトのアドレスを、私にメールして頂きたいのです』
『この思考盗聴器は、謎だらけです。誰が、何の目的で作ったのかは分かりません。目的を予想します。1つめ――』
(そんなに、筋が通らない話を言っている訳でもないハズ……!)
『これらの予想が真の目的ではなく、本当はもっと恐ろしい目的で、思考盗聴器が作られたのかも知れません。思考盗聴器がこれ以上認知されると、国中がパニックに陥るでしょう。一刻も早く、思考盗聴器を使用不可能にさせなければなりません。どうか、協力をお願いします。』
「これ、ゆっくりと読まんと、な」
マウスが、モニタの文字を青く囲んだ。
『私の携帯電話のメールアドレスはsh…….jpです。どうか、思考盗聴器の証拠を私に送ってください。最後までお聞きくださり、ありがとうございました。では、失礼します』
これを、夕方、講義が終わった時間帯に呼び掛ける! 時田は、戦う方法を身に付けて、思考盗聴器と真っ向から戦っていくことになる。
――、
(まだ、情報が足りない……)
時田は、『呼び掛け』をおこなう前に、準備を整えんとする。呼び掛け文章が本当に携帯の画面に映るか等、不安な要素が多かったからだ。
(協力者が居れば……そうだ!)
時田は、入学当初人間関係を警戒しており、積極的に話し掛けもしなかった同級生に、声を掛けてみるコトとした。
「ヤガイ君、やあ……」
「おう、時田さんか……」
ヤガイ――。彼は偶然にも同じ学生寮に居た。
何故彼に話し掛けたか――? それは、実習の成績が良い工業高校の出身で、いつも逸早く実習の課題を終え、足早に帰宅するエリートに見えたからだ。思考盗聴器についても論理的に……? 勝手な期待から、おこがましくも時田は、出会って間もない彼に協力を求めようとしてしまったのだ。
「あの……ヤガイ君、お願いしたいことがあって」
「なんやなんや、言うてみ?」
「……」
「……?」
学生寮2階の一室、18歳2人の間に、気まずい沈黙が流れる。
時田は意を決して、重い口を開いた。
「こっ、個人情報とか、特定の人物の情報を隈なく知る“機械”みたいなものってある?(思考盗聴器とか言ってたら、不審者扱いされる……)」
「……それ知ってどないするん?」
「いや、使ってみたいかなって……(俺は何言ってんだ?)」
ジッと時田を見つめるヤガイは、頬を緩めることなく、真剣な眼差しで、言った。
「そうか。つまりそういうモンを手に入れる――、その為にワイを駒として使う言うんやな」
(ハッ!? “駒”ってリアルの日常会話で使う人、初めて見た! この子、実習ができるってだけの、ヤバい人……?)
時田は、少々身の危険を覚えつつも、常軌を逸した現象を見ると笑ってしまう癖があったので、笑いもこらえるコトに必死だった。
「聴いとるか?」
その一声で、我に返った時田は、思うのだった。マズい、と――。
「あっああ。駒とか、そういうんじゃなくて、協力できることがあればしてほしいくらいのことで……ゴメンね。何かいきなり変な事言って」
ヤガイは、肩透かしをくらったかの反応を見せ、しかし必要以上に表情を変えず、返したのだった。
「せやな。お前さんは、数学ができるガタイの良いヤツって印象やったが、存外、変なとこあるんやな」
「あ、ああ。うん」
「用事はそれだけか?」
「あー、それだけ。何か困ったことあったら俺にも言ってね、協力する。じゃあね」
「ほーい」
時田は逃げるようにその場を去った。そして、息を切らしながら思うのだった。
(いきなり、協力してとか言うのも、思考盗聴器について教えてとか言うのも、大分……無理がある……)
暫くは1人で戦っていくコトを心に決めた、時田であった。




