11 不平不満があっても、あと一歩が踏み出せない。そして人はズルズルと続けてしまう
居酒屋の店長からクビ宣告を受けてから、数日後――。
時田は仕込み作業で早めに店に入っていた。
「よお」
「!」
時田になれなれしく話しかけてくる男――。
それは店長だった。
「今日でお前ともおさらばすることになるな」
「……はい」
「まあしっかり働けや」
「はい……」
去っていく店長。すると店員の1人がゴニョゴニョと小声で話し掛けてきた。
「店長、あんなんだけど、熱い男なんだよ。食い下がってみると、まだ働かせてくれるかもよ」
「はあ……」
別にここじゃなくてもなぁ、と生返事をしたものの、時田はこの直後、周りのノリに流されるコトとなる。
店長が再び時田の方へ向かってきた。表情を作っているのが丸わかりである。そして口を開く。
「なぁ、今日でお前はここを去る事になるが、本当にそれでいいのか!?」
はい! とは言えず……。
「いいえ!」
「お世話になった社員さんと、こんな形でお別れする事になっていいのか!?」
これまた、はい! とは言えず、
「いいえ!」
さらに店長は言う。
「そうか……ならこれから先、ここで真剣に働く気はあるか!?」
周りを見てみる。期待の眼差しが時田に向けられていた。
(……仕方ない)
「はい!!」
時田はできる限り大きな声を出して答えた。
「よし! じゃあ働かせてやる」
(終始、上から目線で偉そうだな、コイツは)
ともあれ、時田がこの店で継続して働くコトが決まった。
(まぁ、また履歴書かいたり、面接受けるよりは面倒事が無くていいか)
時田はその程度に捉えていた。あの日が来るまでは――。
あの日、時田は身の毛がよだつ思いをする事になる。そのお話はまたの機会に。
――、
さて、アルバイトの方は事なきを得たのだが、大学生活の問題は尽きない。
(ただでさえ思考盗聴器を仕掛けられ、苦しんでいるのだから、他の事では満足のいく生活をしていたいものだ)
その問題というのは、部活動についてである。二度目になるが、今している部活動は、通っている本校の大学と姉妹校の合同チームで行っている。
監督は言っていた。
「俺は練習に来る奴を使う」
しかし、試合には普段練習に来ない者や練習中にサボる者を使っていた。
何故か?
それは先ほど挙げた連中が姉妹校の学生だからである。
監督は姉妹校に在籍していた教員である。だから、自分の教え子がかわいいという理由で、本校の部員を試合に出さないのである。
(こっちは本気で練習しているのに……!)
それに、明らかに時田の方が上手いのに、時田より下手な先輩を試合に出し、負けている。
多分その理由は以下の通りだ。
その先輩を成長させる為。
その先輩はあがり症で、人前に立つとテンパる。試合中も例の如くテンパる。エラーや凡退を繰り返す。それで負ける。
監督は人前でも堂々と接する事ができるようにと、その先輩を試合で使ったり、キャプテンに指名したりしていた。
(百歩譲ってそれでいいとしよう。しかし監督は試合に負けると)
「お前ら勝つ気あるのか!?」
(と怒鳴る。お前が言うな。一人の人間を成長する為に、チームを犠牲にするか、チームの勝利の為に、個人を犠牲にするかどっちかにしろ。同時に二つは無理だ)
しかも、先ほど挙げた先輩は、大して良い人でもない。
時田が大学2年時、運よく試合のメンバーに選ばれた日に、
「時田、スパイク忘れたから貸してくれ」
と言ってくる始末。
「俺、今日試合出るんですけど……(てかキャプテンのくせして、誰が試合に出るとか知らないのかよ)」
「あれ? そうなの?」
「……」
スパイクは自分の足に合わなければ使えない、言わば体の一部。それを他人に借りるなど、愚の骨頂だ。下手すればバットやグローブよりも重要だろうに。こんな調子だが、年功序列的な部分もあるこの部に、最上級生になれば普通に試合で使ってくれるかもという淡い期待を寄せながら、続けようか辞めようか迷いながらズルズル部活動を続けていく時田だった。




