48.宝箱
「これ、大変だな~」
「人手が欲しいよな」
「人手?」
「ああ。人は、アリよりも弱いらしいからな」
ドロップ品を回収しているモモが呟き、同様にしている俺は相槌を打つように話した。こちらを向いたモモが尋ね、俺は足元で自分よりも遥かに巨大な他の虫の死骸の羽を運ぶ三匹のアリを見ながら呟いた。
「人って弱いの?」
「ああ。人は、かなり弱いらしいんだ。だから、一人じゃ何もできないんだよ」
「ふ~ん…」
「そろそろ、仲間を募集してもいいかもな?」
「あっ! そうだ! ん~~~」
【サイクロン!】
こちらを見たモモが尋ね、俺は返事を戻した。モモは何かを思考するように上を見上げながら声を漏らし、それを見た俺は尋ねた。モモは突然何かを思い出したかのように声を上げ、力んだあと魔法を使用した。狙いを定めて放たれた小さな竜巻が、地面に散らばる魔石と水晶を持ち上げる。
「あっ!」
魔法の効果が消失して水晶が地面に落下し、声を上げたモモはその場で項垂れる。
「お兄ちゃん。これ、拾わないとダメなの?」
「拾わないと、金が貯まらないぞ。それに、ゆっくりやってると消えるぞ」
モモはそのままこちらに顔を向けて尋ね、俺は返事を戻した。ダンジョンのドロップ品は、時間が経過すると自然消滅する。そのため、定期的に拾わなければならない。
(いろいろ効率が落ちるが、これは仕方がないからな…)
「拾わないと消えるのに、拾うと消えないなんて、おかしいな~」
「あっ」
「どうしたの?」
「あっ。いや。なんでもない…」
(子供の頃に、そんなことを考えたことがあったな…)
俺が魔石を拾いながら思考していると、水晶を拾ったモモが首を捻りながら呟いた。あることを思い出した俺は思わず声を上げ、モモが尋ねた。返事を戻した俺は、純粋な童心を思い出した。
「そう言えば、アリの巣はどうやって壊したんだ?」
「サイクロンで、壊したよ」
「ん? サイクロンは、そんな威力は出ないだろう?」
「うん。だからこうやって、ん~って魔力をいっぱい貯めてから巣の中に打ったの。そしたら、地面が崩れて穴が塞がったの」
「それは、得意な魔法だからできたのか?」
「そうだと思う?」
「なるほど」
ついでにその事を思い出した俺は尋ねた。モモは返事を戻し、疑問を覚えた俺は尋ねた。モモは腕を前に伸ばして説明した。当時を再現したのであろう。俺は再び尋ね、こちらに顔を向けたモモは疑問形で話した。俺は半分ほど納得して返事を戻した。そして、俺達は回収作業を再開する。
「あっ」
「ん?」
「水晶が、拾う前に消えてな…」
「これくらいに、しておく?」
「そうだな」
腰をかがめて水晶に手を伸ばした俺は、それを掴むことができずに思わず声が漏れ出た。モモが疑問に声を漏らし、俺は出来事を説明した。モモが窺うように尋ね、俺は周囲を見渡しながら返事を戻した。
「また、倒しに行くか?」
「今度は、拾いながらやる?」
「そうだな。どっちが効率がいいか、試しながらやろう」
「うん」
【【ストレージ】】
俺が尋ねると、モモも尋ねた。俺が提案してモモは返事を戻し、互いにスキルを使用して拾い集めたドロップ品を収納する。
狩り場を移した俺達は、乱獲を再開する。数回これを繰り返していると、
『グゥ~』
(腹が減ったな…。そろそろ潮時か)
腹の虫に気付いた俺は思考した。
「モモ!」
「なーに!?」
「腹が減ってきたし、そろそろ終わりにするか!?」
「うん! いいよー! 私も、お腹が空いちゃったー!」
『ズバババ!』
俺は少し離れた場所で狩りを続けるモモに、聞こえる程度の音量で声を掛けた。モモも同様にし、俺は尋ねた。返事を戻したモモは、ラストと鋭い斬撃を繰り出して周囲のアリ達をバラバラする。そのあとドロップ品を回収し、俺の下に駆け寄る。
「それじゃあ、回収しながら階段に戻るぞ」
「うん!」
俺は声を掛け、モモは満足気な表情で頷きながら返事を戻した。
こうして、俺達はドロップ品を回収しながら一層に続く階段を目指し、今回はこのまま街に帰ることにした。
「あれ? 何か、光ってるよ?」
階段に向かう道中で他の冒険者達が戦闘を行う中、モモが前方を指差しながら尋ねた。輝く物が存在しないはずの草原の中に、日光を強く反射する長方形の物体が見える。見慣れているようないないような、そんなデザインだ。
「宝箱だ!」
気付いた俺は思わず歓喜の声でその名称を叫んでいたが、慌てて周囲を見渡す。他の冒険者達の視線が宝箱に向く。
「しまった! 急ぐぞモモ!」
「うん!」
声を上げた俺は慌てて駆け出し、モモも同様にした。他の冒険者達は戸惑いを見せている。俺を追い抜いたモモが、宝箱に向けて膝からスライディングする。
「取ったよ! お兄ちゃん!」
「ああ。やったな!」
「うん!」
宝箱に抱き付いたモモが、自分達の物だと主張するように声を上げた。追い着いた俺も同様な声を上げ、モモは満面の笑みで頷きながら返事を戻した。周囲の冒険者達は口惜しがり、舌打ちしている。神々しく日光を反射している宝箱は、色味から鉄製と判断できる。大きさは、モモが中にすっぽり入れる程度だ。
宝箱は、箱の材質に、木、鉄、銅、銀、金製と種類がある。それ以外にも超レアでミスリルやオリハルコンと虹色に輝く材質がある。モンスターを討伐してるとそれらは稀にドロップし、このようにひょっこり出現する場合もある。
宝箱と言えばトラップが付き物だが、このダンジョンではそれは仕掛けられていない。その代わりと言ってはなんだが、中のアイテムは高価な物ではない。しかし、新人冒険者に対しては有用なアイテムになる。
今回の金策では、ドロップ品の中に壊れかけの武器や防具が多少混ざっていが、宝箱のドロップやひょっこりはこれが始めてた。
「ねえねえ、開けていい?」
「ああ、いいぞ! 期待してるからな!」
「うん! 任せて!」
待ちきれない様子で宝箱をじろじろと見まわしているモモが尋ねた。俺は全てを委ねる想いで力強く返事を戻し、モモは頼もしく声を上げた。俺達は息を飲んだ。静寂の中、モモが左手で下の箱を押さえ、右手で上蓋をそっと押し上げる。
『カチャ』
そそられる開錠音が周囲に響き渡る。他の冒険者達の視線が、宝箱に集まる。モモはそのままゆっくり上蓋を開く。同時に、俺は前のめりになり中を覗き込む。
「これって…?」
中身を目視したモモは、俺に視線を移しながら尋ねた。俺は思わず首を傾げる。中身は、緑色を基調とした布製の羽付き帽子と、その下に同系色の布製の服と思われる物が畳まれている。
「どうなんだろうな~? 金属製の武器や防具なら、多少は良し悪しの判断が付いただろうが…。これは、見当が付かないな…」
俺は、思わず呟いていた。そのあと、首を捻りながらこれをじ~と見つめる。
ーーーーーーー
風の帽子
ーーーーーーー
「うおっ!」
「えっ? どうしたの?」
「こ、こんなのが出たぞ」
突如、俺の目の前にステータス画面の様な表示が現れた。俺は思わず声を上げながら数歩後方にたじろいでいたが、その画面は俺から離れない。疑問の声を漏らしたモモがこちらに振り向きながら尋ね、俺は画面を指差しながらそう伝えた。
「ん~~~…。鑑定スキルとか?」
「そうか!」
【ステータス】
俺の隣に移動して画面を覗いたモモは、顎に手を当てながら唸り声を上げたあと尋ねた。声を上げながら納得した俺は、ステータス画面を開いた。すると、鑑定というスキルが新規に表示されている。
鑑定は、射程範囲内の物質やモンスターなどを詳細に調べる効果を持つスキルだ。レベルの上昇により効果も上昇する。
「おっ! モモ、鑑定を覚えたぞ!」
「やったね、お兄ちゃん!」
鑑定を習得した俺は歓喜の声を上げ、モモはこちら腕を掴みながら褒め称えた。
「他のも、調べてみるか!」
「うん!」
俺は上機嫌で声を上げ、モモも同様にした。
「これはどう?」
【鑑定】
早速、モモが宝箱の中から上着を取り出して尋ね、俺はスキルを使用した。これを繰り返し行い、宝箱の中身は風の○○と名の付く防具一式だと判明する。
(装備と鑑定スキルは、嬉しいが…)
「どうしたの?」
「いや、異世界転生の物語だと、ここで最強装備とかが出るんだが…」
「も~。それは期待し過ぎだよ。これだって、きっといい装備だよ!」
出来事と結果に満足しながらも、俺は不満を覚えた。こちらの様子に気付いたモモが尋ね、俺は理由を説明した。呆れた様子のモモは、そう話しながら取り出した服を自分に宛がいつつ嬉しそうに踊り始める。
(そう都合良く、最強装備なんて出るわけないか)
踊っているモモを見ながら思考した俺は、反省する。
(期待は外れたが、折角の宝箱からのドロップ品だ。たぶん、今の装備品よりは使えるだろう)
「そうだな。初めての宝箱だし、もっと喜ばないとな」
思考した俺は、気持ちを切り替えて声を掛けた。そして、モモが手にする服は動き易そうな感じで、どこか風をイメージさせるようなデザインだ。
(壺よりは、使えるだろう!)
俺は、「あれは、いい物だ」と言った人物を思い出し、慰めにすることにした。
このあと、俺とモモはご機嫌な様子で街への帰路を進むことになった。
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