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スキルマスター  作者: とわ
第二章 アクアンシズ編
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78.スクロールの作成 後編


 俺達は老婆に案内され、店内の恐らくこの様な時のために設けてあるのであろう片隅の若干使い込まれた2人掛けのテーブル席に向き合うように座り、スクロールの作成を始める。


「コツは、ずっと同じ量の魔力をペンに纏わせて、一気に描き切ることよ」


 老婆は準備と簡単な説明を終えたあと、椅子に戻り読書を始める。俺達は言われた通りに魔力をペンに纏わせて、スクロールに魔法陣を描き始める。しかし、


「あはは! お兄ちゃん、手が震えてるよ~」


「そっちこそ! それは円とは呼べないだろ!」


 これが結構難しく、モモがそれに指を差しながら腹を抱えて笑い、俺はしかめっ面で言い返した。このあとも、しばらくの間はそのまま互いにののしり合いながら作業を続けるが、


「できたー!」


 性格の差であろう。先に完成させたモモが両手を広げて高らかな声を上げ、そのあとこちらに身を乗り出して得意気な顔を見せつけた。


「早いな…。俺は、もう少しだ…」


 未だ三分の二程度の出来の俺は、応えながらその顔の下からテーブル上のモモのそれを羨ましく確認するも、


(鬱陶しい…)


 と思い再びスクロールに向き直り作業を再開する。すると、モモは少し呆けていたが次第にこちらにちょっかいを出し始め、俺はこの苦難を適当にあしらいながら乗り越える。そして、


「よし! できた!」


「お疲れ! おにいちゃん!」


 漸く俺が完成させて歓喜の声を上げると、モモも同様に声を上げて喜んでくれた。


「終わったみたいね。でも、2人共。残念だけど、今回は失敗よ」


 しかし、老婆は椅子から立ち上がることなくそう話をした。


「そんなにすぐに、分かるのか!?」


「分かるわ。成功するとスクロールが一度、薄っすらと光るからね」


(なるほど、それで分かるのか。そうでないと、使い物にならないからな)


 俺は驚き尋ねたが、老婆の微笑みながらの説明に素直に納得した。


「ありがとう。だいたい分かったよ。あとは、帰ってから練習してみる」


「分からないことがあったら、いつでもおいで」


「うん!」


 俺が礼を述べて立ち上がると老婆はそのまま話をし、モモは頷きながら返事を戻して立ち上がった。


 このあと、俺達は数十回分の作成用の材料を購入して店を離れた。


 ちなみに、今の俺の錬金術レベルは3で、合間に行うポーションの作製で上がっていたがまだまだ未熟だ。やはり、自分で何かを生み出すということは、長く険しい道のりだった。





 宿に戻った俺達はそのまま俺の部屋のテーブル席に向き合うように座り、スクロールの作成を始める。


 互いに見本を壁に貼り付けてそれを見ながら魔法陣を描き始めるが、やはりその際の魔力の調節に四苦八苦する。そして、数回の失敗を重ねたあと、漸く俺が一枚を完成させる。この時、老婆の話の通りにスクロールが一度、薄っすらと光った。


「漸く一枚か~。これは、気長にやるしかないな~…」


 俺の呟きにモモは反応しなかった。頭を上下にコクコクと揺らしている。


 引き続き作業を行い、時刻は昼になる。俺はモモを起こし、2人で一階に向かい昼食を済ませる。そのあと再び作業を再開するがしばらくして、


「飽きたから、リリー達のところに行ってくるー」


 モモが椅子から立ち上がり、悪気のない口振りを残して部屋を出て行った。


(地味な作業だしな。こればかりは、無理に付き合わせるわけにもいかないよな)


 見送った俺は、寂しく思うが作業を続ける。そして、時折休憩を挟みながらこれを続けていると、いつの間にか周囲が薄暗くなる。


(そろそろ、終わるか)


「「「ただいま~」」」


「お腹すいたよ~」


「私も~」


「お腹すいたわね~」


「おかえり~」


 俺が手を止めると、モモ達が声を揃えて帰って来た。振り向くと、モモがお腹を擦りながら話をし、リリーとアイラも同様にした。そして俺は返事を戻したが、


「何これ?!」


「お兄ちゃん、まだやってたんだ~」


「紙ばっかりだね~」


 突然、視線を落としたアイラが叫び、モモはさらりと冷たいことを言い、リリーが呆れた様子で話したが、それらは俺の背後の入り口付近以外の室内がスクロールで埋め尽くされていて歩くスペースがないためだ。


「悪い。今、片付けるよ」


 俺は疲れてはいたがそう応え、散らばるスクロールを搔き集め始める。すると、


「これが、スクロールってやつ?」


「そうだ。アイラは、見るのが初めてだったか?」


「自分で作ったんだね。凄ーい」


 アイラがそれを手に取り不思議に眺めながら誰かに尋ねたため俺は返事を戻したが、リリーは素の表情で胸の前で手を合わせながら言葉のみで驚いて見せたため、


(リリーも、結構ドライだよだな…)


 そう評価してリリーからモモと同類な匂いを嗅ぎ取った。そんな中、


「それにしても…、何、この汚いのは?」


「それは、失敗したやつだ。捨てるのももったいないから、上から何度か重ね書きしたんだ」


「ふ~ん…」


 アイラが別のスクロールを手に取り尋ねたため俺は応えたが、気のない返事が戻った。そんな会話もあったが、このあとの3人は片付けを手伝ってくれる。しかし、


「これも~」


「これもだね」


「ここにもあるわよ!」


「…」


 失敗したスクロールを集め始め、リリーはそれに呆れたような、モモはそれに同調したような、アイラはそれに驚いたような話し方をし、俺は床に座りながら虚無のような感情になった。


「これって、いくら掛かったの?」


 それを見ながら立っているアイラが、不意に誰かに尋ねた。と同時に、3人の視線が俺に集まる。


「未記入のスクロールが銀貨1枚と銅貨5枚で、魔法のペンが銀貨3枚。それと、魔法のインクが銀貨1枚で、合計で…、銀貨4枚と銅貨5枚か?」


「か? じゃないでしょ。か、じゃ~。しかもそれ、一枚の値段でしょ!?」


「た、高すぎるよ~…」


 俺が冷静に応えると、アイラが左手にしたそれを右手の甲で弾きながら棘のある話し方をし、リリーは申し訳なさそうに呟いた。


(うう…。流石に、これは高過ぎるよな…。少しは、そう思ってはいたんだが…。これは、ゲームと違ってペンとインクは使い回せる! なんて言ったら、もっと怒られるだろうしな…)


「それに、使えるものならともかく、こんなに失敗ばかりして~。一体どうするのよ!?」


 視線を逸らし怯えながら言い訳を考える俺に、アイラが更にきつく追い打ちを掛けた。


(そ、そんなことを言われてもな…)


 良い言い訳が思い浮かばない俺はアイラがブツブツと言っている隙に共犯者のモモに視線を向けたが、一度それは合ったがそのあと知らん顔された。


(モモめ…。あとで覚えてろよ!)


「終わったものは、仕方がないよ~」


 瞬間、闘志を燃やした俺だが、ここでリリーの柔らかい声が届いた。


(おっ!? フォローしてくれるのか! 流石リリー! 優しいな!)


 安堵して、俺は立ち上がりこちらに歩み寄るリリーに視線を移すが、


(な、なんだ? 顔は優しいが…。これは…、プレッシャーなのか!?)


 謎のオーラに気圧された。リリーはそのまま俺の目の前で仁王立ちし、そのあとずいっとこちらに顔を近付け、


「スクロール作りは、今日で禁止です!」


 有無をも言わせぬ眼差しでそう言い切った。世の中、そうは甘くはないようだ。


「お金は、大事なんですよ! 錬金術のレベル上げなら、ポーションを作ってください! モモちゃんも! それでいいよね!」


「は~い」


「わ、わかった」


 そして、腕を組んだリリーの話に、モモと俺は屈服して返事を戻した。


 リリーは普段おっとりとしているが、案外しっかり者なのかもしれない。こと、金に関しては厳しそうなので、このあと俺はモモと相談してこの件については逆らわないことにした。





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