77.スクロールの作成 前編
商業ギルドをあとにした俺達は、当初の予定通りに二手に別れて行動する。リリーとアイラはレベル上げに向かい、俺とモモは買い出しのために魔道具屋に訪れる。
「おはよう」
「おはよー」
店内に足を運びながら、俺とモモが棚の整理を行う老婆に挨拶した。
「おや、おはよう。あなた達、また来てくれたのかい」
「ああ…。少し早かったか?」
「そんなことはないわ。いつもこの時間に掃除をしているだけよ。今日はどうしたのかしら? もしかして、召喚に失敗したとかじゃないわよね?」
再会を喜んでくれた老婆に俺が尋ねると、その手を止めて微笑みながら応えたあと不安げな表情でこちらに尋ねた。
(召喚は成功したが、アイラを呼び出したからな…。ちょっとこの話題は避けたいし、ここは話を先に進めるか)
「違うよ。今日は別の用事で来たんだ。魔法のスクロールを作りたいんだが、道具はここにあるか? それと、できればやり方も教えてほしいんだが…」
「もちろん、あるわよ。やり方ぐらいは道具を買ってもらえるなら教えるけど、本当に初めてなの?」
「ああ、全くの初心者だ」
「うん!」
「そう。よっこいしょ。それなら、そこの何も書いていないスクロールと、魔法のペンとインクが必要になるわ」
俺は一瞬ドキッとしたが、その話題は避けて話をした。すると、老婆は商売人の笑顔をチラリと見せたあとこちらに尋ねたが、俺がはっきり答えてモモが力強く頷くと近くの椅子にゆっくりと腰を下ろし、テーブルの上のそれらを指差しながら説明した。
「普通の、紙みたいに見えるね」
「だな」
そこに移動した俺達は、モモがスクロールを手にして撫ながら話をし、俺はぽつりと返事を返した。
スクロールは若干黄色味がかった色をしている。触り心地は日本にあるようなつるつるとしたものではなく、ざらついた仕上がりだ。上部に紐が付いていて、恐らくこれは完成した時に丸めて結ぶための物であろう。それとペンは羽ペンで、インクを付けて使用するタイプだ。
「これで、魔法陣を描くのか?」
「ええ、そうよ」
「魔法陣は、どういう作りなんだ?」
「それは、勉強するのよ」
「…」
俺がペンを弄りながら尋ねると老婆はさらりと応えたが、若干意味が違うと思い再び尋ねると再びさらりと応えてきてこちらの思考は停止した。何故なら、俺はこういった文系っぽい勉強が大っ嫌いだからだ。
「最初は、他のものを写すのよ」
こちらが顔を引きつらせていると、老婆はクスクスと微笑みながら話を付け加えた。
(良かった~。それなら、なんとかなりそうだ)
そして、俺は心の底から安堵した。
「それは、何を写してもいいの?」
「いいえ。そういう訳にはいかないわ。錬金術のレベルに合ったものを作らないと、失敗ばかりすることになるの。あんた達の、得意な魔法は何?」
俺が一息ついているとモモが尋ねたが、老婆はゆっくりと首を横に振り、そのあと説明してこちらに尋ねた。
(得意な魔法か…。全部、というのはあれだし、レベルの上がってるやつでいいか)
「水魔法だ」
「私は風魔法」
「そう。それなら、これを見ながらやるといいわ。よいしょ」
俺は一応頭の中で精査して応え、モモも応えると老婆は椅子から立ち上り二枚のスクロールを棚から手にしてこちらに差し出した。
「これは?」
「ウォーターボールと、サイクロンのスクロールよ。まずはそれで練習をしてみるといいわ」
(ウォーターボールか~。あれは、あまり攻撃に使えないからな~…)
受け取った俺が尋ねると老婆はそう応えたが、ウォーターボールは戦闘ではほぼ使用しておらず、
「アイスニードルの方が、いいんだが…」
「初心者だと、それはお勧めできないわ。作れないことはないでしょうけど、魔力を込めながら描くのはそんなに簡単ではないの。どうかしら? 道具は買ってもらうけど、良ければここで今から試しに描いてみる?」
(お!? 今、やれるのか。これはありがたい)
「やってみたい!」
「助かる。お願いするよ」
様子を窺うように再び尋ねたが、老婆は申し訳なさそうにこちらに返事を返して提案した。そして俺はこれをありがたく思い、モモと一緒に返事を返した。
こうして、俺達はこの場でスクロールの作製を行うことになった。
☆を付けていただけると嬉しいです。
ブックマーク登録もして頂きたいです。
やる気が出るのでよろしくお願いします!
 




