72.ありえない!
「ありえないわ! 高レベルの、それも召喚をマスターした術者が、たまたまのたまたまにまたたまたまがまたまたたまたまとたまたましくまたまたまたたまたま重なって、偶然で私を呼び出したりすることはあるけど、ルーティみたいな超超超初心者の召喚術者が呼べるはずないわ!」
「11回言った!」
「12回よ」
「あれ~? おかしいな~。たま、たま、たま…」
取り乱しながら声を荒げたアウラ様は頬を膨らませてぷいっと横を向いたが、恐らくたまの数を数えたのであろうモモが指を差しながら声高く話し掛けるとそれは間違いで冷徹な視線が送られた。そしてモモは再びそれを指折り数え始めたが、
(たまの数はどうでもいいが…。さて、どうしたものか。今、アウラ様が、召喚をマスターした、と言った。たぶん、今回の件は俺のスキルマスターのせいだ…。とりあえず、この事を話してみるか)
俺は2人のやり取りに呆れながらも思考を纏め、このあとアウラ様にスキルマスターについて説明した。すると、
「!?」
アウラ様は目を大きく見開き、口をパクパクとさせて酸欠状態の魚のようになった。どうやら、あまりの驚きで声が出ないようだ。
「自分で、帰れないの?」
「それが、ダメなのよ…。さっきから試してるけど、何故かここだと女神の力が使えなくて…」
ここで、たまを数え終えたモモが当然のように尋ねたが、アウラ様は肩を落としながら話をして落ち込んだ様子で俯いた。
「解除すれば、帰れるか?」
「そうです。それです!」
次に、俺が尋ねるとアウラ様は冷静さを取り戻したのか、元の口調で両手を合わせながら歓喜の声を上げたが、
「お兄ちゃん、待って。それって、アウラ様を放置することになるんじゃない?」
「あ…」
モモの話で、俺は召喚のルールを思い出した。
「どういうことでしょうか?」
「いや、解除はモンスターを自由にさせるだけだから、元の場所に戻すってことじゃないんだ」
「そうなのですか…」
アウラ様は俺に尋ねたので説明すると、弱々しくこれを受け止めて再び俯いてしまった。そしてふと、俺は別のルールを思い出す。
「ひょっとしたら、レベルが1になったせいじゃないか?」
俺の話に、アウラ様は瞬間身動きを止めた。そして、
「わ、私は、レベル1なの!!!???」
そのあと凄まじい勢いでこちらに顔を向けた。
「ああ、さっきので召喚されたモンスターは、みんなレベルが1になるんだ」
「わ…、私! モンスターじゃないんですけど!!!」
瞳を潤ませたアウラ様は、叫びながら俺の胸倉を両手で鷲掴みして抗議し始めた。
(アウラ様、顔が近いが…)
やるせないのであろう。俺は激しく体を揺さぶられるが、これに抗わなかった。そして、しばらくするとそれは少しずつ収まり、
「はあ~…。もう、いいですわ。今は確認のしようも、ないですから…」
力なく元の椅子に戻った。しかし、
「女神ってなんですか!? 話が全然分かりません!」
今度はリリーが大声を上げた。アワアワしながら、こちらもかなり取り乱している。
(そりゃそうだよな。リリーにはさっぱり、今、起きている事が分からないだろうな。この際だから、俺とモモの事を話してみるか)
俺達は、リリーに今までの経緯を説明した。
「ふえええっ!」
(なんか、新種の鳥みたいだな…)
リリーはかなり驚たあとふらついたが、なんとか持ち堪えた。そして、俺はそんなことを考えたが、
「とりあえず、ギルドに行って冒険者カードを作ってみないか? そうすれば、何か分かるかもしれないし」
「わかりました。ギルドという場所へ、案内してください」
「ああ。でも、その服じゃあ不味いだろ。何か、他のに着替えた方がいいぞ」
「わ、私ので良ければ、服はありますよ」
今後についての話をするとアウラ様は素直に同意した。続けて、服装が気になり話をすると、リリーがストレージから予備の服を取り出してアウラ様に手渡した。
「わかりました。ちょっと着替えてきます」
「こちらへどうぞ」
2人は隣の部屋に向い、それを済ませて戻って来た。すると、
「私、女神なのに! これじゃあもう、お嫁に行けないわ!」
再び声を荒げたアウラ様だが、そのあとがっくりと項垂れた。どうやら、服のサイズが合わなかったようで、胸の辺りがかなりダボついて見える。
(そんな些細なことは後回しだ。今は先にやることがある…。そういえば、前にもリリーが同じ様なセリフを言ってたな…)
余程、自分のスタイルに自信があったののであろうが俺は面倒臭いのでこれをスルーし、少し余計なことも思い出したがそれも今は忘れることにした。そして、
「名前はどうする? アウラ様って呼ぶと、流石にこの世界の女神の名前だろ? それだと、色々不味いんじゃないか?」
「そうですね…。わかりました。私の名前は今後アイラとします。勿論、様付けも必要ありませんから」
「わかった。とりあえずはそうしておこう。モモ達もそれでいいか?」
「いいよ!」
「わ、わかりました!」
俺が尋ねるとアウラ様は名前を変え、続けて尋ねるとモモは普段通りだが、リリーは緊張しながら声を上げた。
(初めの内は何かとぎくしゃくするかもしれないが、その内なんとかなるだろう)
不安は残ったが、とりあえず、俺達はギルドに向かうことにした。
「あれは何?」
「あれは、雑貨屋だよ!」
「あれはあれは?」
「あれはね、駄菓子屋さんだよ!」
しかし、俺の不安は無駄だった。そして今、アイラが嬉しそうに尋ねるとモモが楽しそうに応え、再びアイラが興味深そうに尋ねると今度はリリーが自慢そうに応えた。先程から3人がはしゃぎ周り、大いに盛り上がっていて非常に騒がしい。
(さっきまでの落ち込みは、なんだったんだ。立ち直りが早いのは、いいことだが…。というか、異世界の駄菓子屋さんってなんだ!?)
俺は色々と思うところがあったが、今は黙って先に進むことを選んだ。
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