74.神界事情とアイラの装備
「どういうことだ?」
俺は、首を傾げながら尋ねた。
「ん~っと、並列思考って分かるかしら?」
「同時に、2つの事を考えるってやつだろ?」
「そうよ。でも、私の場合は同時に複数の事を考えることができるの。それで、神界に居た頃は女神の力で体も並列思考の数だけ作ることができたの。私は、その中の一人よ。それで、他の世界を担当してたから、この世界の事は分からないのよ」
すると、若干悩んだアイラが確認するようにこちらに尋ねたので俺が応えたが、続けた次の説明でこちらは全員言葉を詰まらせた。
(いきなりで頭が回らないが、アイラは俺達が出会った女神ではなく、別世界の女神なのか。だが、俺とモモのことは知っていた。並列思考だからか? それなら…)
「並列思考なら、皆で情報を共有してたんじゃないのか?」
「体が1つの時は共有してたけど、別れてからは別々にやっていたのよ。1人で管理ができないからこそれの、それなんだから」
頭の中を整理したあと俺は尋ねたが、アイラは当然のように話をした。しかし、
「それじゃあ、面倒臭いからとかじゃないんだね?」
モモが不意に尋ねるとアイラの眉はピクリ動き、職務怠慢が晒された。
(流石だモモ。鋭いな)
俺はアイラの引きつる表情を確認したあと、無言のリリーを見た。すると、口をぽかんと開けたまま固まっていた。
(恐らく、この世界にも並列思考ぐらいあると思うが、今、それを説明してる暇はないし…。リリーにはかわいそうだが、少し放置して話を続けよう)
「そっちの世界の並列思考が、どうのこうのというのはいいよ。たぶん、聞いても分からないしな。それより、その女神っていうスキルには何か心当たりはないのか?」
「何とも言えないわね~。そもそもこのスキルが女神本来の力を指してるのか、それともこの世界の独自のものなのか、今はそれすら分からないわ」
(女神というスキル…。よく分からないが、これは最強! と思いたいところだが、これ以上は聞いても答えは出なさそうだな…)
再び頭の中を整理して視線を戻しながら尋ねた俺は、アイラの首を左右に振った話しぶりから現状では答えが出ないと判断した。
「わかった。スキルの事は、一旦保留にしよう。モモ達も、それでいいか?」
「うん。いいよ」
「ハッ! だ、大丈夫!」
俺が尋ねるとモモは気にした素振りもなく頷き、リリーはなんとか我に返った。そして、
「ちなみに聞くが、アイラを召喚して、その…、仕事と言うか…、そっちの方は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。私は何人も居るし作ることもできるから、きっとどうにかしてるわ」
続けて尋ねるとアイラに気にした様子はなく、寧ろ嬉しそうに話をした。
俺達は、これらの話はここで終わりにした。神界の話で本人が問題ないと言うのであれば気にしても仕方がなく、逆に根掘り葉掘り聞き出すと何かのトラブルに巻き込まれる可能性があるためだ。
このあと、昼食を取りながら今後の予定を立てる。そして、とりあえず装備を揃えてレベル上げを行おうという話になる。元々、モンスターを召喚した際もこれらを行う予定であり、まずはそこから始めることになった。
◇
俺達は、まずは武器屋に向かう。
武器屋はこの街には一軒のみではなく複数あるが、ギルドに向かう道中で目にした古びた木造の建物の安そうな店を選ぶ。
「武器は、何か使いたいものはあるか?」
「今は、殴りたい気分よ!」
店に入り俺がアイラに尋ねると、何かの衝動を抑えるかのようにしながら店内を右往左往して武器を漁り始めた。
(ストレスでも、溜まってるのか? それにしても、何を選ぶんだろうな?)
心配しながら俺が眺めているとアイラは槌武器の前で立ち止まり、それらを手にして感触を確認し始める。そして、
「これがいいわ!」
アイラは棍棒を選んだ。初めはスチールハンマーに手を伸ばしたが、そちらは重くて持ち上がらなかった。
(棍棒か…。それなら、これを渡してみるか)
「アイラ、これも使ってみてくれ」
俺は、側に並ぶウッドバックラーを手渡した。
「これは?」
「それで、リリーを守ってほしいんだ。魔法使いだから、防御が低くてな」
「いいわ! 任せて!」
アイラはこちらに尋ねたが、俺はいずれ必要になると思い今から盾を持たせることにした。すると、その返事はそれはそれは生き生きとしたもので、
(なんか、楽しそうだな?)
俺はそんな風に感じた。
次は、防具屋に訪れた。
「女神だから、この方がいいのかしら?」
アイラは迷いながらも、僧侶のようなデザインの布の服を選んだ。レベルが1なので、これはとりあえずの物だ。
装備が揃い、俺達は街の外に出た。
周辺の景色は草原で、アクアンシズでもスライムなどの弱いモンスター達は近辺にそれなりに存在する。なので、それらを相手にアイラのレベル上げを始める。
(やっぱり、ストレスでも溜まってたのか…?)
俺達が見守る中、
「待て待てー!」
『ドゴン!』
盾をこちらに置いて行ったアイラは自由に野を駆け回り、満面の笑みを浮かべながら歓喜の声を上げて会心の一撃でそれらをホームランし続けた。
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