表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死者選定  作者: 修羅観音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
92/97

第九十一章:残響の終止符と、琥珀色の未来

夜の静寂が支配する、政府所有の厳かな建物の最奥。

そこには、一般の職員が決して足を踏み入れることのない、最高級の調度品で整えられた一室がある。


重厚な扉が音もなく開き、二人の女性が室内へと滑り込むように入ってきた。

一人は、この「死者選定」という地獄の祭典を司った主、鬼道閻魔。

そしてもう一人は、彼女が絶対の信頼を寄せ、喫茶店では有能な店員として鶫たちを見守っていた女性スタッフである。


「珈琲を淹れましょうか?」

女性スタッフが穏やかに問いかけると、閻魔は「有難う御座います」と短く応じ、中央に鎮座する応接テーブルのソファへと深く腰を下ろした。


テーブルの上には、彼女のかおであった漆黒の閻魔面が、役割を終えた遺物のように静かに置かれている。

スタッフは音を立てぬ流れるような手つきで、最新鋭の珈琲メーカーの準備を始めた。


「鶫ちゃんは、確証こそなくとも、薄々と真実には気づいているかもしれませんね。……あの死んでいった者たちの経緯について」

豆を挽く芳醇な香りが漂い始める中、女性スタッフがふと独り言のように漏らした。


「恐らく、勘づいているでしょうね。そしてその直感は、限りなく正解を射抜いているはずですよ」

閻魔は背もたれに身を預け、冷徹な響きを帯びた声で淡々と答えた。


彼女が手元のリモコンで壁面の大型モニターを点灯させると、そこには報道されることのない「真実」の断片が映し出された。

一つ目の画面には、椅子に縛り付けられた状態で絶望の涙を流す音無家の人々。

叔父も叔母も、あの傲慢だった息子も、ガスが充満する家の中で泣き叫び、無様に命乞いを繰り返した末に、爆音と共に光の中へ消えていった。


二つ目の画面には、施設内で既に瀕死の重傷を負わされ、意識を失いかけた状態で崖淵まで引きずられていく4人の男たちの姿。

彼らは抵抗する術もなく、作業員のような男たちの手によって無造作に突き落とされ、冷たい谷底で絶命していった。


「死のエンターテインメント。死を突きつけられた人間が見せる剥き出しの本性というものは、何度観ても実に興味深いものでした」

閻魔はモニターを消し、暗転した画面に映る自分の影を見つめて、不敵に、そしてどこか満足げに微笑んだ。


「それで……第2回は結局、やらないのですか?」

女性スタッフが尋ねると、閻魔は僅かに眉を寄せ、深い溜息を吐き出した。


「ええ。まさか第1回において、これほどのイレギュラーを二人も呼び寄せてしまうとは計算違いでした。……参加させる人間をどう選別するかが、今後の大きな課題として浮き彫りになりましたから、今回の企画は一旦中止です。仮に再始動するとしても、当分先の話になるでしょう」


ちょうど珈琲が淹れ上がり、女性スタッフが二客のカップをテーブルに運んだ。

閻魔は差し出されたカップを受け取り、その温もりを掌で確かめる。


女性スタッフは閻魔の向かい側に座り、自分の珈琲を一口含んでから、ふっと柔らかな笑みを浮かべた。

「……美味しい。けれど、やっぱり彼岸さんと鶫ちゃんが淹れてくれる珈琲の方が、より美味しいと感じますね。あの二人をスカウトしたのは、大正解だったと思います」


閻魔もまた、その意見に同意するように珈琲を一口啜り、ゆっくりと目を閉じた。

「ええ、本当に。これはこれで好きですが……あの喫茶店で流れる時間と共に味わう珈琲こそが、やはり最高ですね。日常に一つ楽しみが増えました」


彼女はそう呟くと、テーブルの上の閻魔面を一瞥し、二度とそれを手に取ることのないような仕草で、琥珀色の液体を喉に滑らせた。

窓の外には、鶫たちが生きる新しい「日常」の灯りが、静かに、そして確かに広がっていた。


---

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ