第八十三章:害悪の終着駅と、血の代償
純白の処刑場と化したその部屋には、もはや逃げ場などどこにも存在しなかった。
椅子に固定された四人の男たちは、死神の鎌が喉元に突きつけられたことを本能で悟り、顔を土色に変えて震えている。
モニターの中の閻魔は、まるでゴミの山を鑑定するかのような冷淡な眼差しを向け、感情を一切排した声で問いかけた。
「最後に何か、見苦しくて聞き苦しい言い訳はありますか? 冥土の土産話にでもなるような、気の利いた言葉を期待したいところですがね。」
その言葉に、真っ先に義彦が食いついた。
彼は己の社会的地位という、この場では何の役にも立たない盾を必死に構え、唾を飛ばしながら喚き散らす。
「な、なあ、待ってくれ! 儂がおらんと会社が……ほら、儂は多くの社員を抱えてるんやぞ! 儂がここで消えてしもうたら会社がつぶれて、社員を路頭に迷わせてしまうやろ!? それは社会的な損失や! 儂は何としても、生きて帰らなあかんのや!」
自らを不可欠な存在だと信じ込み、他人の生活を人質に取るようなその卑劣な命乞いに対し、閻魔は心底愉快そうに、しかし猛烈な温度の低さで嘲笑した。
「シリコンバレーの有名な世界レベルの企業のCEOなり社長なり、そういった人達がいなくなった後も、その企業はしっかりと何事もなかったかのように回っています。彼らからすると比べ物にならないレベルで小物の分際で、大物社長気取りとは、小物感全開ですね。あなたが一人いなくなったところで、世界は一ミリも揺るぎはしませんよ。せいぜい、腐った利権とゴミ屑老害が一つ消えて清々するだけです。」
完膚なきまでにプライドを叩き潰された義彦が絶望に顔を歪める傍らで、次は翼が狂ったように叫び始めた。
「俺は未来ある若者だ! 若い可能性をこんなところで潰していいのか!? 俺にはまだ、輝かしい未来が待っているはずなんだよ!」
その言葉を遮るように、閻魔の冷酷な宣告が部屋の空気を凍りつかせた。
「鶫さんを、いじめという名の暴力で迫害し続けた害悪なるクソガキに、未来なんて言葉は万に一つも存在しません。生かしておけば更なる犠牲者を生み、いずれは確実な犯罪者にしかならない。そんな害悪なるクソガキに相応しきは、慈悲なき確実な死のみです。」
翼は、己の犯してきた罪が「可能性」という言葉で塗り潰せるほど軽いものではなかったことを突きつけられ、言葉を失ってガタガタと椅子を揺らすことしかできなかった。
閻魔の視線は、次に石のように固まっている慎介と智弘へと向けられた。
「御客様から金だけとった後は、御客様に対して偉そうに『コンサル生』とか『受講生』とか言って見下して、平然と失礼なことをしまくった挙句に、成果は横取り。もし成果をあげられなければ全て「自己責任」と特大ブーメランを投げつけて御客様のせいにしてふんぞり返っている、コンサルタントを名乗る我利我利亡者な害悪詐欺師の御二人も、何か言い訳はありませんか? 聞くだけなら聞いてあげます。」
慎介と智弘は、自分たちの欺瞞と醜悪なビジネスの裏側を完璧に暴かれ、最早何も言えずに震え上がる事しか出来なかった。
彼らの沈黙こそが、自らの罪を肯定する何よりの証左であった。
「では、地獄までの片道切符を切りましょう。他人様を散々苦しめておきながら、のうのうと生きてきたんですから、今更楽に死ねるとは思わないように。」
冷酷な宣告が下されると同時に、重厚な扉が音もなく左右に開かれた。
そこへ、無機質なサングラスをかけ、隙のない黒スーツを纏った屈強な男たちが、死神の行列のようにゾロゾロと入って来る。
絶望的な光景に、四人の男たちは阿鼻叫喚の叫びを上げ、拘束具が壊れんばかりにのたうち回った。
モニター越しに、喚き散らす四人の哀れな害悪共を観察しながら、閻魔は手元に用意していた最高級の珈琲を静かに一口飲んだ。
画面の向こう側で繰り広げられようとしている酸鼻を極める惨劇を、まるで映画が始まる前の予告編でも眺めるかのような、軽やかな足取りの聲音で呟く。
「……ふぅ。この企画が全て終わったら、彼岸さんの珈琲を飲みに行くとしましょうか。」
断末魔の如き叫びが部屋に響き渡り、純白の空間が漆黒の絶望に塗り潰されていく。
閻魔は満足げに目を細め、最後の一滴まで珈琲の香りを堪能していた。
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