↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死者選定  作者: 修羅観音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
83/97

第八十二章:民意という名の断頭台

純白に塗り固められたその部屋は、影さえも許さぬほどに無機質な光に満ちていた。

かつて彼岸が「最期」を迎えたはずのその場所で、今度は四人の男たちが、逃れられぬ鋼鉄の拘束に身を震わせている。


「くそ! 一体どこのどいつが俺の名前を書きやがったんだよ……! どいつもこいつも、寄ってたかって俺を……!」

翼は顔を真っ赤に染め、獣のような唸り声を上げながら、椅子をガタガタと激しく揺らして悪態を吐き捨てた。


その隣で、長年「選ぶ側」の人間として生きてきた義彦は、自らの余命を悟ったかのように深く項垂れていた。

「……そもそも、最初のメールの段階から、ある意味での『選定』は始まっとったっちゅうことか……。儂らは最初から、まな板の上の鯉やったんやな……」


掠れた声で漏らされたその独り言を拾い上げ、モニターの中の閻魔が、冷酷な響きを帯びた声で言葉を重ねる。

「老害さんは、流石は伊達に年を食っているだけあって、なかなかいい所に気づきますね。ええ、そのように捉えて頂いて一向に構いません。他人に名前を書かれないよう、人から恨みを買わないよう、日頃から周囲の人間に優しく誠実に生きなかった自分自身の報いだと思うと、少しは諦めもつくのではないですかねえ」


閻魔の淡々とした言葉に、慎介は納得がいかないといった様子で、眼鏡の奥の瞳を血走らせて叫んだ。

「待て……! そんな理屈が通るか! 選定自体は、あの場で厳正になされたはずだ! 中間選定でも最終選定でも、あの場にいた7人中5人が、あいつ……彼岸を選定したはずだろ!? ルール通りにやった僕達が、なぜこんな目に遭わなきゃならないんだ!」


その必死の訴えに対し、返ってきたのは、鼓膜を震わせるほどに深く、そして長い、心底呆れ果てたような溜息であった。


「な、なんだよその、くそでか溜息は……! 何か言いたいことがあるなら、はっきりと言いやがれ!」

翼が震える声で吠えたてるが、閻魔の冷ややかな沈黙は一向に破られない。


「誰がいつ、選定を行うのは『この施設にいる参加者だけ』なんて言いました? 企画を発表した際も、国民に名前を書かせるために送りつけたメールやメッセージの中にも、一言もそんな事は書いていなかったはずでしょうに。あなたたちのその都合の良い解釈には、ほとほと愛想が尽きます」

閻魔が指先を僅かに動かした瞬間、部屋の四方を囲む複数の巨大モニターが、鮮烈な閃光を放って一斉に切り替わった。


そこには、変えようのない真実が映し出されていた。

一つのモニターには、施設内での彼らの生活ぶりが、施設内のいたるところに設置してあるカメラによって余すところなく捉えられた映像が流れている。


食事中に放った身勝手な不満、他者を蹴落とそうとする卑劣な密談、内職を軽んじる傲慢な態度等々……。

そして、それに対応するように隣のモニターには、その映像をリアルタイムで視聴していた「国民」たちの、殺意すら孕んだ膨大なコメントの奔流が表示されていた。


彼岸と鶫に対しては、その気高い在り方を称賛し、救いを求める温かな言葉が画面を埋め尽くしている。

中盤以降、罪の意識を持って、鶫を案じるようになった幸子に対しても「このおばさんは、まだ赦せる」「性格悪すぎる4人と比べると、幸子はまだ生き残ってもいいかな」といった一定の評価が下されていた。


しかし、残りの四人の男たちに向けられたのは、文字通り「ゴミ」を見るかのような、凄絶な批判と罵詈雑言の嵐であった。

「鶫と彼岸以外、全員消えればいい」「こいつら生かしておく価値ないだろ」「幸子だけはギリ助けていいけど、後の四人はさっさと死ぬべき。害悪でしかない」


画面にはさらに、中間選定と最終選定における「国民投票」の結果が、無慈悲なグラフとなって突きつけられた。

国民の圧倒的な意志。

それは、あの場にいた参加者の投票など容易に飲み込んでしまうほどの、巨大な殺意の塊であった。


「選定者は自分達だけだと思ったら大間違いです。おそらく、彼岸さんは最初から、そのシステムに気づいていたのでしょうね。だからこそ、自分自身がおたくらから選ばれるように仕向けつつ、視聴している全国民に対して、これ以上この血生臭い企画に加担しないで欲しいという無言のメッセージを込めて、自らのボードを白紙にしたんでしょう。本当に、あの人はどこまでも思慮深く、恐ろしいほどに賢い人です」


閻魔の声が、絶望に凍りつく男たちの逃げ場を完全に塞ぐ。

「何時から自分達は選定されない安全圏にいる『一方的に選定する側』の人間だと勘違いしていたんです? 最初から言っていたでしょう、これはエンターテインメントだって。ほら、昔ありませんでしたか? ひとつ屋根の下で共同生活して恋の成就を面白おかしく演出する番組とか、世界を一台のバスに乗って旅して告白の成功と失敗に一喜一憂するテレビ番組とか。あれの『死』を題材にしたバージョンですよ、この企画は。視聴者の共感を得られなかった者は、強制的に物語から退場して頂く。それだけの話です」


残酷な真実が、処刑場の空気を絶対零度まで引き下げた。


愛を育むリアリティショーと同じ演出で『死』をテーマにした企画。

その中で彼ら4人が演じていたのは「排除されるべき悪役」という滑稽な役どころに過ぎなかったのだ。


「おたくら害悪四馬鹿の死は、もはや揺るぎない国民の総意であるという事は、今の映像から十分に理解できましたね?」

閻魔の冷酷な宣告が、絶望の淵に立たされた四人の耳の奥で、葬送の鐘のように重く、鋭く鳴り響いた。


---

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。