第八十章:偽りの福音と、害悪の円卓
タブレットを閉じ、鶫と彼岸との通信を終えた閻魔は、静まり返った社長室のような一室で、深く長い溜息を一つ吐き出した。
仮面の下の素顔には、先程までの慈愛に満ちた微笑の残滓はなく、ただ深淵のような冷徹さが戻っている。
「『あの医務室へ行ったのは、あなたが最後』『他の連中も一度ぐっすりと眠った』。嘘は何も言っていませんからねえ、嘘は」
彼女は、自らの言葉遊びの残酷さを噛み締めるように、淡々と、そして冷酷に独り言を呟いた。
確かに鶫は最後の一人として医務室を経て「外」へ出た。
そして幸子と、他の四人もまた、深い眠りの中で運ばれたのは事実である。
ただ、その「運ばれた先」が施設の外ではなかったという点については、鶫には語らなかっただけの話。
閻魔は、大企業の最上階にあるような広大で綺麗な部屋に設置された、巨大な壁面モニターを操作した。
電子音と共に映し出されたのは、あの漆黒の施設内にある、かつて彼岸の「最期の時」がライブ配信されていたあの忌まわしい真っ白な部屋である。
そこには、食堂で最高級のサンドイッチと珈琲に舌鼓を打ち、勝利の余韻の中で眠りについたはずの4人の男達がいた。
慎介、智弘、義彦、翼。
彼らは今、逃れられぬように設計された豪華な椅子に座らされ、手足を強固に固定された状態で、醜くもがき苦しんでいる。
「これこそ、全世界にリアルタイムで放送したかった最高の名場面なのですがねえ。……本当に、惜しいことです。」
閻魔は、モニターの中でジタバタと無様にのたうち回る男達を眺め、毒づいたような嘲笑を浮かべた。
慎介は必死に冷静さを装おうと周囲を伺い、智弘は震えながら涙を流している。
義彦は怒りに顔を真っ赤にして叫び、翼は力任せに拘束を引きちぎろうと椅子をガタガタと揺らしていた。
閻魔はもう一度、退屈な事務作業を再開するかのように深いため息をつくと、モニターの音声出力をオンにした。
4人がいる部屋の正面にある巨大モニターに、あの閻魔の仮面が映し出される。
彼らが絶望の叫びを上げ、画面を凝視したのを確認してから、閻魔はマイクに向かって声を吹き込んだ。
「ごきげんよう、存在価値マイナスな害悪四天王。……いえ、四天王だなんて、あなた達には上等すぎますね。害悪四馬鹿とでも言いましょうか」
冷たく、突き放すようなその宣告は、純白の部屋に響き渡り、男達の淡い期待を無惨に打ち砕いた。
閻魔の瞳は、もはや彼らを人間として見てはおらず、ただ処分を待つだけの汚物を見るかのような、底知れぬ蔑みに満ちていた。
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