表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死者選定  作者: 修羅観音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/97

第六十八章:最後の饗宴と、忍び寄る睡魔

食堂に重々しく踏み込んできた4人のスーツ姿の男たちは、翼たちの目の前で銀色のワゴンをぴたりと止めた。

彼らは無言のまま、磨き上げられたクローシュの取っ手に手をかけ、一斉に蓋を持ち上げる。


立ち上る芳醇な肉の香りと、焼きたてのパンの香ばしい匂いが一気に室内に広がり、男達の鼻腔を強烈に刺激した。

そこには、肉厚でジューシーな最高級のビーフサンドと、黄金色に輝くふわふわの卵サンドが、芸術品のように美しく盛り付けられていた。


続けて、スタッフ達は別のトレイから、淹れたての香りが高く立つブラックコーヒーを4人の前に静かに置いていく。

すべての仕事を終えると、彼らは機械的な動作でワゴンを回収し、一言の挨拶もなく食堂を後にした。

「ガチャン」という重厚な閉扉音が響き、再び4人だけの空間が戻る。


「何だよ、急にサービスが良くなりやがって! これ、外に出る前の前祝いってとこかよ。最高じゃねえか!」

翼は目の前の肉厚なサンドイッチに目を輝かせ、下品に喉を鳴らして笑った。


「あはは、本当だね! せっかくだし、この絶品そうなコーヒーで乾杯しようよ!」

智弘もこれまでの緊張が嘘のように破顔し、幼い子供のようにはしゃぎながらカップを持ち上げる。


「いいね、賛成だ。あ、スマートフォンを返してもらったら、連絡先でも交換しておくかな。この地獄を生き延びた『戦友』としてね」

慎介は瞳を細め、勝利を確信した余裕の笑みを浮かべて同意した。


「ほな、乾杯や! 祝・生還!」


義彦の威勢の良い掛け声と共に、4つのカップがカチリと音を立てて合わされた。

彼らは争うようにして、分厚い肉が挟まったビーフサンドを頬張り、その溢れ出す肉汁と逸品の味わいに舌鼓を打った。


「幸子さんのサンドイッチとは、また違った洗練された味わいやな。しかもこれ、かなりの上等な部位の肉を使っておるで。脂の甘みが違うわ」

義彦は経営者としての舌を満足させたのか、相好を崩して肉の食感を堪能する。


「コーヒーも絶品だ。これほど深く、雑味のない味は久しぶりだよ。ここを出る直前に、これほど最高の朝食にありつけるとはね」

慎介は深く息を吐き、琥珀色の液体を喉に流し込んで至福の表情を浮かべた。


「本当、スマートフォンがあればSNS用に写真撮りまくるのになあ。映えまくりだよ、これ」

智弘が残念そうにこぼすと、翼は口いっぱいにサンドイッチを詰め込んだまま、意地悪く鼻を鳴らした。


「ま、そんな不自由で窮屈な生活とも、これでおさらばだぜ。それにしてもよ、幸子さんと鶫のやつ、勿体ねえ事したよな。部屋に閉じこもってやがるから、こんな美味いサンドイッチとコーヒーを逃しちまってさあ。馬鹿な連中だぜ」

男たちは、彼岸を切り捨てたことへの罪悪感など微塵も感じさせない様子で、己の強運と「勝利」を祝して贅沢な朝食を平らげた。


しかし、至福の時間は唐突に終わりを告げ始める。

最後の一口を飲み干し、美味しいコーヒーの余韻に浸っていた翼が、不意に大きな欠伸を一つ漏らした。


「……ふあぁ。なんだか、急に力が抜けちまったな。連日、緊張の連続だったからなあ。それに、やっと満腹になって、ちょっと眠くなってきやがった。居眠りしそうだぜ……」

翼の声は次第に重くなり、焦点の定まらない瞳が、まどろみの中で揺れ始める。


すると、呼応するように他の3人も、抗いがたい強烈な睡魔に襲われたかのように、うつらうつらと舟を漕ぎ出した。


「……儂もや。急に瞼が重くなってきよった。ちょっと部屋に戻って、一休みしとくか。どうせ、帰る時はまた、閻魔のやつがモニターから大声で起こしてきよるやろ……」

義彦は椅子から立ち上がろうとしたが、その足取りは泥に足を取られたかのように覚束ない。


慎介も、智弘も、自分たちの体に起きている異変が、単なる「食後の眠気」にしてはあまりにも急激で深いものであることに気づかないまま、重い体を引きずるようにして各々の自室へと向かって椅子から立ち上がろうとした。


---

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ