第六十七章:傲慢なる食卓と、銀色の宣告
静まり返った食堂では、幸子が鶫の部屋へ運んだものと同じサンドイッチを平らげた4人の男たちが、椅子の背もたれに深く体重を預けていた。
一人の男を死に追いやったことへの呵責など、既に胃袋の腑に落ちて消えてしまったかのように、彼らの表情にはどこか弛緩した空気が漂っている。
「ふぅ……。幸子さんのサンドイッチ、味は確かに美味いけど、ちょっと量が少ねえな。これじゃあ、食った気がしねえよ」
翼は皿に残ったパン屑を指先で弄りながら、不満げに鼻を鳴らして笑った。
「幸子さんがここにいる時に、そんなこと言ったら『文句があるなら自分で作れ』って烈火のごとく叱られそうだな」
智弘が翼の態度に苦笑しつつも、どこか同調するように肩をすくめて笑う。
「実際そやろ。作ってもろて文句言うのは筋違いや。我儘言わんと、この状況で飯が食えることを有難く思っときや」
義彦が年長者としての体面を保つように嗜めるが、その言葉にはどこか投げやりな響きが混じっていた。
「まあ、確かに食べ盛りの若者には物足りないかもしれないね。僕でもまだ腹5分目くらいといったところだから。胃袋が刺激されて、かえって空腹感が増してしまったよ」
慎介は理知的な笑みを浮かべながら、優雅に空のカップを見つめた。
その時、「ブゥンッ!」という重低音と共に、壁面の大型モニターが鮮烈な光を放って起動した。
画面に映し出されたのは、あの禍々しい仮面を被った閻魔の姿であった。
「お早う御座います、他人に朝食を作って貰っておきながら不平不満しか言わない、礼儀を知らぬ失礼極まりない愚か者共。」
閻魔の声は、朝の清々しさを一瞬で凍りつかせるような、冷徹で棘のある響きを帯びていた。
「お前、いちいち悪口を言わなきゃ気が済まねえのかよ!? こっちは客だぞ、いい加減にしろ!」
翼が椅子を蹴るような勢いで立ち上がり、モニターに向かって怒鳴り散らす。
「おまけに挨拶も出来ないクソガキは、ついに最後の最後まで治りませんでしたね。まあ、ここは性格破綻者矯正施設ではありませんから、あなたのような壊れた存在に期待するだけ時間の無駄というものですが。」
閻魔は翼の怒声など風に流すように淡々と言い放ち、仮面の奥で嘲笑うような気配を見せた。
「……それで、いよいよここを出るための具体的な説明をしてくれるんですか? 無意味な口論で時間を浪費するのは僕も本意ではないのでね
」
慎介が割って入るように尋ねると、閻魔は僅かに声を低めて答えた。
「その前に、そこの世間を知らない無礼千万な青二才共が、足りないと抜かしやがるのでね。こちら側の慈悲で、特別にサンドイッチを追加で用意致しました。」
閻魔がそう告げた直後、食堂の重厚なドアが「ガチャン!」と音を立てて左右に開かれた。
そこへ姿を現したのは、あの例のサングラスと黒スーツに身を包んだ、4人の屈強な男たちであった。
彼らは普段のような無機質な歩みではなく、一流ホテルの給仕か高級レストランのウェイターを思わせる、磨き上げられた銀色のワゴンを静かに押し進めてくる。
ワゴンの上には、照明を反射して銀色に光り輝くクローシュが、恭しく乗せられていた。
その場にそぐわないあまりにも豪華な演出に、男達は一瞬言葉を失い、固唾を呑んでその光景を見守った。
銀色の蓋の下には、一体どのような「追加の食事」が隠されているのか。
贅沢な輝きを放つクローシュが、男たちの傲慢な空腹を嘲笑うかのように、食堂の中央へと運ばれていく。
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