表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死者選定  作者: 修羅観音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/85

第六十章:還りし魂と、冥府の主

意識の混濁が晴れ、重い瞼をゆっくりと押し上げると、そこは清冽な静寂に包まれた医務室と思しき一室であった。

目に飛び込んできたのは、無機質な白壁と、機能美すら感じさせる清潔な調度品。


体を起こすと、傍らには白衣を纏ったドクターらしき男性が静かに佇んでいた。

彼は彼岸が目を覚ましたことを手元の端末で確認すると、深く追求することもなく一度だけ短く頷き、部屋の外へと消えていった。

それから間を置かず、ドクターが再び室内に戻ってくる。


「暫く安静にしていてください。歩けるぐらいになったら、そこのブザーを押してください」

淡々とした口調でそう告げると、彼は枕元にあるナースコールのようなボタンを指差した。


それ以上の説明を拒むかのように、ドクターは再び病室らしき空間から足早に出ていく。

残された彼岸は、自らの内に流れる血の音を聞きながら、緩慢に回復していく体感覚をじっと見つめていた。


やがて、四肢に力が戻り、地を蹴るに十分なほどまで体調が整う。

彼岸はゆっくりとベッドから身を起こし、床に端正に揃えられていた靴へと足を通した。


彼岸はドクターが言っていたボタンを一度押してから立ち上がり、床を踏みしめる。

足の裏から伝わる冷たく硬い感触。

地に両足をしっかりと付け、重力を感じるその刹那、彼岸は自分が未だこの「娑婆」に繋ぎ止められていることを、嫌というほど実感した。


そこへ、重厚な足音と共に、あの見慣れた屈強なスーツ姿の4人組が音もなく入室してきた。

サングラスの奥の視線は読めないが、彼らは逃亡を許さぬ壁のように彼岸を取り囲む。

彼岸は慌てる風もなく、いつものように静かに掌を合わせて合掌し、慈悲深い微笑を浮かべた。


「私は阿弥陀様に浄土へお連れ頂いたかと思うたのですが……どうやら、まだ浄土には行けなかったようですねえ」

穏やかに、そしてどこか愉快そうに笑って告げるその声には、死の淵を覗いた者特有の凄みと、それすらも包み込むような包容力が同居していた。


「こちらへ」

スタッフの短い指示に従い、彼岸はニコニコと柔和な笑みを絶やさぬまま、彼らの後に付いて部屋を出た。


殺風景な廊下を歩む足音だけが規則正しく響き渡る。

やがて一行は、他の部屋とは一線を画す重厚で美麗な扉の前へと辿り着いた。

近づくと同時に、扉は滑らかな駆動音と共に自動的に左右へと開かれる。


スタッフに促されるまま足を踏み入れた先は、高級ホテルのスイートルームか、あるいは一流企業の社長室を思わせる洗練された空間であった。

無駄な装飾を削ぎ落としたミニマリズムの極致とも言えるその部屋の中央には、数枚のモニターを設置した大型のテーブルが鎮座している。

そして、その最奥には、重厚な執務用デスクと椅子が静かに据えられていた。


視線を中央のテーブルへと移すと、そこには向かい合うようにして二つのソファーが配置されている。

扉から見て奥側のソファーには、黒の長ズボンタイプのスーツを凛と着こなした一人の女性が腰を下ろしていた。

その顔には、禍々しくも神聖な「閻魔」の仮面。


彼女は足を組み、静かな威圧感を纏いながら、還ってきた「死者」である彼岸をじっと待ち構えていた。


---

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ