第五十四章:摂取不捨の残響と、最期の証言
静まり返った面会室で、四人のスタッフは彫像のように動かず、ただ一人の少女が絶望の淵で咽び泣く様を、無機質なサングラス越しに見守っていた。
彼らにとってこれは日常の業務に過ぎないのかもしれないが、その沈黙は鶫の孤独をいっそう際立たせていた。
やがて鶫は腫れ上がった瞼を指先で拭い、震える膝に力を込めてゆっくりと立ち上がった。
もはや流すべき涙が枯れ果てたのか、その瞳には悲しみを超えた、どこか透明な決意の光が宿っている。
彼女は背筋を伸ばし、四人のスタッフに先導されるようにして部屋を後にした。
自室に戻り、冷え切ったベッドに腰を下ろすと、まるで彼女の帰宅を待ち構えていたかのように壁面のモニターが鮮烈な光を放ち、閻魔の面が映し出された。
「これから、彼岸さんの最期をライブ配信します。食堂に集まっているあの自己中心的な五人の方々は、既におやつや飲み物を片手に見学の準備を整えておられます。あ、幸子さんは食欲がないのか珈琲だけですが……鶫さんはどうしますか? 部屋のモニターで視聴することも、あるいは何も見ずに目を閉じることも自由ですが」
閻魔の声には、他者の不幸を娯楽として消費する者たちへの微かな蔑みと、鶫への試すような響きが混じっていた。
「……ここで、見届けます。」
鶫は逃げることなく、真っ直ぐにモニターの閻魔を見据えて答えた。
「見ないという選択はしないのですね。凄惨な結末になる可能性もありますが、後悔はしませんか?」
「目を逸らしちゃいけない、そんな気がするんです。彼岸さんが命を懸けて教えてくれたことを、最後までこの目に焼き付けなきゃいけないという直感があるから。」
鶫の声は細かったが、そこには揺るぎない魂の震えが宿っていた。
「分かりました。では、ライブ映像に切り替えます。もし途中で耐えられなくなったら、いつでも私に声をかけなさい。」
画面が切り替わると、そこには殺風景な白い部屋が映し出された。
中央に置かれた椅子には、いつものように黒い作務衣を端正に着こなした彼岸が、静かに腰を下ろしている。
彼の前には木魚がしつらえられており、右手にはバチが握られていた。
左手は胸の前で、まるで仏像が印を組むように、あるいは静かに祈りを捧げるように合掌の構えを取っている。
死の影が色濃く漂うその場所にあって、彼岸の表情は驚くほど穏やかであり、その微笑みは慈悲そのもののようであった。
やがて、画面越しの彼岸が静かに唇を動かした。
「光明遍照、十方世界、念仏衆生、摂取不捨」
その声は、電子機器を通しているとは思えないほど深く、鶫の部屋の隅々にまで浸透していった。
光は遍く世界を照らし、念仏を称える者を決して見捨てず、その懐に収め取る。
その宣言を終えると同時に、バチが木魚を叩く「ポク、ポク、ポク」という一定のリズムが刻まれ始めた。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」
彼岸は延々と、淀みなく念仏を称え始めた。
それは死への恐怖を紛らわせるための叫びではなく、自らの命を宇宙の大きな流れに還していくための、清らかな儀式のようであった。
鶫はモニターに吸い寄せられるように、その姿を凝視し続けた。
白い部屋の中で、黒い作務衣を纏った彼岸の存在だけが、圧倒的な生命の密度を持って輝いて見えた。
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