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死者選定  作者: 修羅観音


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第五十三章:白亜の処刑場と、鳴り響く慈悲

彼岸は鶫との別れを終えた後、静かな足取りでスタッフに連れられ、別の部屋へと通された。

そこは、眼が眩むほどに殺風景な真っ白な部屋であり、逃げ場のない清潔さがかえって暴力的なまでの圧迫感を与えていた。


部屋の中央には一脚の無機質な椅子が設置され、その傍らには、何かの薬品を静脈から投与する為の精密な装置が、蛇のような管を垂らして冷たく佇んでいる。

壁の隅々に目を向ければ、死の瞬間までを克明に世界へ晒し出す為のライブ配信用の機材がセットされており、彼岸はそれらを眺めて、己の最期が衆人環視の中でのエンターテインメントとして消費される事を静かに悟った。


「彼岸さん、最後に何かお願い事はありませんか? 中止にしろとか、地球爆発しろとか、そういった類の非現実的な願い事以外で。」

閻魔の声が、天井のスピーカーらしきところから、歪んだ電子音と共に響き渡る。


「非現実的な願い事以外なら何でもいいですよ?……そうですね、例えば、あなたの名前をフリップボードに書いたあの5人を道連れに殺害しろと言うお願い事なら、可としましょうか。あなたの絶望を晴らす為の、最後の手向けとしてね。」

閻魔は、人間の復讐心を煽るような、淡々とした、しかし冷酷な誘いを持ちかけてくる。


彼岸は、その身の毛もよだつような提案を柳に風と受け流し、いつもの穏やかな微笑みを絶やさずに答えた。

「それでは……木魚を御用意頂けませんか? この椅子に座ったまま叩けるようにセットして頂けましたら、とても嬉しゅう御座います。」

彼は自らの最期を彩るものとして、憎悪ではなく、祈りの道具を求めたのである。


「……そのような事でいいんですか? もっとこう、血の気の多い要求が来るかと思いましたが。……分かりました、手配しましょう。」

閻魔の声に僅かな戸惑いのような色が混じり、間もなく音声がプツンと途切れた。


「有難う御座います、感謝申し上げます。」

彼岸は、閻魔の声がした方角へ向かって、笑顔で合掌してお辞儀をした。


側に控えていた4人のスタッフ達は、サングラス越しでもわかるほどに怪訝な、あるいは底知れぬ恐怖を感じたような様子になりながらも、彼岸を部屋に一人取り残して音もなく退室していった。

静寂に包まれた白い立方体の中で、彼岸は椅子に深く腰掛け、手を法界定印と言う形の印に組み、半眼で静かにその時を待つ。

彼の周囲だけが、まるで時が止まったかのような深遠な平穏に満たされていた。


暫くすると、重厚な扉が開いてスタッフが二人、木魚を置く台と立派な木魚を恭しく持って現れた。

彼らは、彼岸が無理なく木魚を叩ける絶妙な場所にそれらを設置し、再び部屋を出て行こうとする。


「お手数おかけ致します、有難う御座います。お陰様で、善き旅立ちが出来そうで御座います。」

彼岸が笑顔で合掌してお辞儀を向けると、殺人工場の部品のようであったスタッフ達も、思わず何かに突き動かされるようにして合掌し、お辞儀を返してから、逃げるように部屋を去っていった。


一人残された白い部屋で、彼岸は自らの命の灯火が消える瞬間を、一つの修行の完成として見据えていた。

彼はもう一度、深く、丁寧に合掌してお辞儀をした。

そうして、迷いのない手つきで傍らに置かれた木魚のバチを手に取った。


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