表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死者選定  作者: 修羅観音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/84

第四十七章:無常の旅立ちと、沈黙の檻

閻魔の声は、一切の温度を排した氷の刃となって、静まり返った円卓の間に突き刺さった。

「それでは、『最終選定』の結果、彼岸さんが選定されたと結論付けます。」


その無慈悲な宣告が下された瞬間、「ガコンッ!」という重厚な金属音を立てて、円卓の部屋の扉が左右に開かれた。

すると、ザッザッという重量感のある足音と共に、黒いスーツに身を包んだ4人の屈強な男たちが、機械的な足取りで室内へと踏み込んできた。

彼らは一様に漆黒のサングラスで視線を隠し、鍛え上げられた分厚い胸板が、逃れようのない物理的な暴力の威圧感を放っている。


死の使者の如き彼らの姿を確認すると、彼岸は「スッ」と音もなく立ち上がり、衣服の乱れを整えるように静かに背筋を伸ばした。

彼は一切の動揺を見せず、ただいつもの穏やかな微笑を湛えたまま、4人の男たちへと合掌してお辞儀をした。

そして、迷いのない確かな足取りで、男達が無機質に待ち構える出入り口へと歩みを進めていく。


「抵抗せずに、話が早くて助かります。無駄な体力の消耗は、死を前にしては滑稽でしかありませんからね。」

閻魔の声がモニターから淡々と響くが、その冷徹な言葉すらも、今の彼岸の清廉な空気には触れることさえできないようであった。


「彼岸さん! 待って、行かないで!」

鶫は悲鳴のような声を上げ、彼を連れ去ろうとする死の淵へと駆け寄ろうとした。


しかし、彼岸は歩みを止めることなく、スッと右の手のひらを優雅に掲げ、慈愛に満ちた笑顔で彼女の動きを制した。

その無言の圧力と、圧倒的な聖性に気圧され、鶫はそれ以上一歩も前へ進むことができず、ただその場に縫い止められた。


彼岸は出入り口の直前まで来ると、一度だけ静かに振り返り、鶫の泣き顔を真っ直ぐに見つめた。

その瞳は、深淵の如き静寂と、春の陽だまりのような温かさを同時に宿している。


「諸行無常。私と言う存在も無常の中において、何時か娑婆を離れて浄土に御迎え頂く日が御座います。娑婆にいる間に、こうして御縁賜りまして、とても嬉しゅう御座います。」

淀みなく、澄み渡るような声で最期の言葉を紡ぐと、彼は再び深く合掌してお辞儀をした。


そして、4人の男たちに囲まれるようにして、光の向こう側へと去っていった。

ガチャンッ!!

彼らが通り抜けた直後、扉は無慈悲な音を立てて閉ざされ、重厚な電子ロックの音が部屋に虚しく響いた。


鶫は弾かれたように我に返り、閉ざされた扉へと縋り付いて、狂ったようにノブに手をかけた。

「開けて! 開けてください! 彼岸さんを返して!」

何度も、何度も扉を叩き、激しく揺さぶるが、強固な鋼鉄の板はびくともせず、冷たい拒絶を返すのみであった。


「無駄ですよ。今扉を開けると鶫さんが面倒な事をしでかしそうだから、暫く扉は閉じておきます。こちらが適切なタイミングで開けますので、ご安心を。」

狂乱する鶫を見下ろすように、閻魔の声が再び部屋を支配した。


「選定した者として、最期まで見届けるまで帰れないと心得るように。それが、死者を選んだあなた達に課せられた義務です。もっとも、彼岸さんの名前を書かなかった鶫さんは対象外ですがね。」

閻魔の言葉は、残された5人と、彼岸を選定しなかった鶫にとっての呪縛となり、逃れようのない現実を突きつける。


「その時までは、引き続き施設内は自由に動き回って結構です。おやつも食べ放題、ドリンクバーで飲み放題だから、最後まで満喫すると良いでしょう。せいぜい、自分たちの選んだ『正解』の味を楽しんでください。」

冷酷な皮肉を言い残すと、モニターは「プツンッ」という音と共に、真っ暗な闇へと沈んだ。


鶫は糸が切れた人形のように、その場にペタンッと崩れ落ちた。

喉の奥からせり上がる嗚咽を、両手で顔を覆うことで必死に押し殺そうとする。


しかし、指の間からは止めどなく涙が溢れ出し、冷たい床を濡らしていく。

自分を認め、救ってくれた唯一の存在が、今まさに消えようとしている。

閉ざされた扉の前で、鶫は己の無力さを呪いながら、ただただ声を殺して泣き続けることしかできなかった。


---

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ