第三十四章:暴かれた虚勢と、少女の咆哮
至福のひとときであったすき焼きを堪能した後、食堂には微かな脂の香りと、満腹感に伴う緩慢な空気が流れていた。
「ほな、男衆。食べ終わったらその重たい鉄鍋、流し台まで運んでな。これくらいは自分らでやりや」
幸子の鋭い指示に、翼、慎介、智弘、義彦の四人は、膨れた腹をさすりながらも文句を言わずに立ち上がった。
彼らは慣れない手つきで熱を持った鉄鍋を慎重に流し台へと運び、洗い終えるのを見届けてから席に戻る。
その間に、彼岸と鶫の手によって丁寧に淹れられた珈琲がテーブルに並べられた。
湯気と共に立ち上る芳醇な香りが、束の間の平穏を演出し、七人で囲む食後の珈琲タイムが始まった。
しかし、その穏やかな時間は、壁面の大型モニターが突如として発した電子音によって無残に引き裂かれた。
画面に映し出されたのは、あの忌まわしい閻魔の面である。
「ごきげんよう。食後の珈琲を楽しむ姿は、最早この施設のルーティンになりましたね。皆様、実に優雅なことで」
「なんだよ、あんた。友達いなさそうだから、寂しくなって俺たちの輪に混ざりてえのか?」
翼が鼻で笑いながら、珈琲カップを片手に挑発的な言葉を投げかけた。
しかし、閻魔は微動だにせず、仮面の奥から氷のように冷たい声を響かせる。
「頭が悪すぎるワルガキ集団の大将を気取っているクソガキには、この危機的状況において、真に頼りになる友達など一人もいなさそうですね。あなたの周りにいるのは、ただの保身の塊に過ぎませんよ」
「お前、ここに来てから俺のことずっと頭悪いって馬鹿にしてるけど、俺の何を知ってやがるんだよ! 適当なこと抜かしてんじゃねえぞ!」
翼が激昂し、テーブルを叩いてモニターに詰め寄る。
だが、閻魔は淡々と、彼の隠された醜部を白日の下に晒した。
「提出課題を、不動の学年1位である鶫さんに力ずくで押し付け、自分は遊び呆ける。そのくせ定期テストでは一桁台を連発し、あまつさえ自分より頭が良い鶫さんを妬んで、取り巻きと共にいじめと言う名の暴力を振るいまくる。こんな恥知らずなことをしておきながら、自分は頭が良くて立ち回りが上手いと思っているなら、その脳は質が悪すぎます。社会の害悪として、さっさと殺処分すべき対象です」
「こ、こいつ……どこまで情報を握ってやがるんだ……。しかも、サラッと怖い事言い出しやがって……」
翼は顔面を蒼白にさせ、全身をガタガタと震わせながら椅子に崩れ落ちた。
あまりに詳細な個人情報の暴露と、容赦のない処刑宣告に近い言葉に、食堂全体が凍りつく。
「頭が悪すぎるクソガキに話の腰を折られましたが、本題に入りましょう。皆様、よくお聞きなさい」
閻魔の声が一段と低く、重々しく響き渡る。
「明日の朝、いよいよ『最終選定』を行います。これが最後の審判です。今晩、部屋に戻ったら中間選定と同じ要領でフリップボードが置かれていますから、この世から消えればいいと思う人の名前を一人書き、黒い袋に入れておくように。……慈悲など不要です。あなたの生存を勝ち取るための、最後の一筆を」
死の宣告とも取れるその言葉に、五人の男と女は、一様に押し黙って自分の手元を見つめた。
そこに走ったのは、他者を踏み台にしてでも生き残ろうとする、どす黒い本能のうねりである。
「あの!」
その沈黙を破ったのは、鶫の鋭く、切実な叫びであった。
彼女は激しく椅子を引き、モニターの閻魔を真っ向から見据えて立ち上がった。
「……なんでしょう? 鶫さん。何か言い残したいことでもありますか?」
「……今からでも、この企画を中止に出来ませんか? いえ、中止にすべきです! こんな、人の命を弄んで、醜い心を剥き出しにさせるようなこと、絶対に間違っています!」
鶫は拳を固く握りしめ、震える声で精一杯の抵抗を示した。
彼女の眼差しには、絶望の中にあっても決して折れない、強固な意志の光が宿っていた。
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