第二十七章:結託の刻印と、剥き出しの牙
翼は「ふんっ」と鼻を鳴らすと、手元の黒い袋から獲物を追い詰めた獣のような手つきでフリップボードを抜き出した。
「トンッ」と、静まり返った部屋に威圧的な音が響き渡り、彼が真っ白なテーブルの上にフリップを力強く立てる。
それを皮肉な号令としたかのように、慎介、智弘、義弘、そして幸子の4人も、何かに突き動かされるように次々と自分のフリップをテーブルへと叩きつけた。
そこに乱暴な筆致で刻まれていたのは、逃れようのない死の宣告――「彼岸」という呪詛のような二文字の羅列であった。
「な……っ!?」
鶫は大きく目を見開き、あまりの光景に息を呑んだ。
あまりに一方的で、あまりに残酷な数字の暴力。
「ガタッ!!」と、椅子が床を激しく擦る乾いた音を立てて、彼女は思わず立ち上がっていた。
目の前のテーブルに並ぶ、五つの同一な殺意の証を信じられないという眼差しで見つめる。
当の彼岸はといえば、嵐の中に咲く一輪の花のように、ただ黙って、慈愛に満ちた穏やかな笑顔のまま座り続けている。
「勝手な事をするのは頭が悪いクソガキ所以であり、そして勝手にそれに続くとは、大人陣も程度が知れますね。」
モニター越しに響く閻魔の低く冷徹な声が、凍りついた室内をさらに冷やしていく。
その声には、人間という種の底の知れぬ醜悪さに対する、深い軽蔑の色が混じっていた。
「仕方ないから、理由を話したい人から順番に話しなさい。あなたたちがその手を汚してまで選び取った、独りよがりの正義というやつをね。」
閻魔の指示を受け、翼は勝ち誇ったような下卑た笑みを浮かべて口を開いた。
「俺は俺以外なら誰でもいいんだよ。そんでさ、彼岸さんはどうせ、いじめられっ子って言うか、いじられ役って言うか。これまでの人生、面倒な事を全部押し付けられて生きて来たような奴なんだろ? 観てればわかるぜ、そういう『空っぽ』な空気感はさ。」
彼は背もたれに深く体重を預け、嘲笑を隠そうともせずにさらに言葉を紡いだ。
「そういう奴は、こういう極限の場所でも『死』を押し付けられるのが、逃れようのない運命なんだよ。自覚しろよおっさん、大人しく俺達の生贄として死んでくれ。」
翼のあまりに独善的で身勝手な論理に、鶫の中で張り詰めていた感情の糸が、音を立てて弾け飛んだ。
「何なの、その言い方!? ここに来てから翼君が食べた後の後片付けは、一体誰がしてきたと思ってるの!?」
鶫の叫びは、静まり返った円卓の間に、鋭い刃のように突き刺さる。
「翼君だけじゃない! 昨日の夜から幸子さんは手伝ってくれたけど、みんな自分の後始末をきちんとしてないで、当たり前のように彼岸さんにやってもらってるじゃない! ここに来てから、彼岸さんがどれだけ皆のために動いてるか、その目で見ても何も感じないの!?」
鶫は震える指先で、テーブルに座る無責任な男達を次々と指し示した。
「何だよ、お前の名前は書かれてねえんだから、いいじゃねえかよ。どうせお前だって、自分が助かって内心喜んでるくせに!」
翼は腹を抱えて下品な笑い声を上げ、鶫の必死の抗議を泥靴で踏みにじるように笑い飛ばした。
「何も良くないし喜んでない!!」
鶫が魂を振り絞るように絶叫した、その時だった。
彼岸が、まるで春の陽だまりのような温かい声音で、穏やかに口を開いた。
「私の為に、有難う御座います、鶫さん。貴方のその清らかな心根に触れられただけで、私は救われた心地ですよ。閻魔さん、翼さんの御意見は以上の様ですから、次の方に移っては如何でしょうか?」
彼はまるで他人事のように、一点の曇りもない笑顔を浮かべ、粛々と進行を促したのである。
「もう彼岸さんが司会進行でも良い気がしてきました。この状況でこれほど冷静でいられるとは、やはり興味深い素材です。はい、では次の方。あなたの醜い言い分を聞かせてください。」
閻魔は淡々と、しかしどこか呆れたような、あるいは深い感銘を受けたような響きを込めて、次の「宣告」の理由を促した。
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