第二十五章:沈黙の叛逆と、少女の宣戦布告
重厚な石造りの壁に囲まれた「円卓の間」は、極寒の底に沈んでいるかのような静寂に包まれていた。
鶫が漆黒の袋を抱えて入室すると、そこには既に彼岸が着席しており、彼女を導くように隣の椅子を僅かに引いた。
鶫がその隣に静かに腰を下ろすと、少し遅れて清水翼を筆頭とした他の5人が、まるで足並みを揃えるかのように同時に姿を現した。
彼らは一様に鶫と彼岸を避けるような視線を送りながら、円卓の向かい側へと着席していく。
全員が揃い、張り詰めた糸のような緊張が部屋を満たした瞬間、正面の大型モニターが「ブゥン」と低い音を立てて起動した。
映し出されたのは、昨日と変わらぬ冷徹な閻魔の面。
「全員揃いましたね。では、いよいよ『中間選定』を開始します」
閻魔の宣言と共に、死のカウントダウンが始まったかのような圧迫感が一同を襲う。
「では、まずは鶫さん。あなたからいってみましょうか」
「え? 私からですか……?」
鶫は思わず声を漏らし、隣の彼岸を見た。
「ええ。さあ、遠慮なく。あなたの決断を皆に示しなさい」
閻魔の声に促され、鶫が袋に手をかけようとしたその時。
向かい側に座る翼が身を乗り出して卑屈な笑みを浮かべた。
「ほら、御指名だぞ。勿体ぶってないで、さっさと発表しろよ。……いいか、もし俺の名前を書いてやがったら、その面をぶん殴ってやるからな」
「……騒いで進行を邪魔するクソガキを、今すぐ殺したくなってきました」
閻魔の冷え切った、それでいて確かな殺意を含んだ声がスピーカーから響く。
「わ、わかったよ……。黙ってるから、そんなに凄むなよ……」
翼は青ざめた顔で座席に深く沈み込み、それ以上言葉を発するのをやめた。
鶫は小さく息を吸い込むと、黒い袋の中からフリップボードをスッと取り出した。
そして、迷いのない動作で、トンっとテーブルの上にそれを置いた。
そこにマジックの太い文字で刻まれていたのは、『選定しない』という文字であった。
「……え?」
翼、慎介、智弘、義彦、そして幸子までもが、予想だにしない回答に呆然として声を失った。
しかし、隣に座る彼岸だけは、最初からその答えを知っていたかのように、慈愛に満ちた優しい微笑みを浮かべたまま動かない。
「私は、誰も選びません」
鶫は震える声を意志の力で抑え、毅然とした態度で言葉を紡いだ。
「そもそも、この企画自体がおかしいと思っています。誰かの死を、他人が勝手に選別して決めるなんて……。そんなの、あまりにも傲慢です。私はこの悍ましいシステムに対する反対表明として、そして抗議の意志として、誰も選ばないことを宣言します」
「なるほど。それが、あなたの応えですか」
閻魔の声には、怒りも驚きも混じっていなかった。
ただ、観察対象としての興味が僅かに滲んでいる。
「はい」
鶫は真っ直ぐに、モニターの奥にいるはずの閻魔を射抜くような眼差しで見据え、断言した。
「公にライブ配信されているこの場で、国家規模の企画そのものに異を唱えるとは。実に、肝が据わっていますね」
閻魔は淡々と言い放ったが、その言葉は円卓に座る他の5人の醜悪な結託を、音もなく嘲笑っているかのようであった。
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