第二十四章:断罪の宣告と、漆黒の覆い
朝食の皿が空になり、芳醇な珈琲の香りが最後の一息を告げようとしたその時。
食堂の壁面に据えられたモニターが、再び不気味な電子音を立てて点灯した。
映し出されたのは、無機質な閻魔の面。
その奥に潜む冷徹な眼光が、円卓を囲む者たちの心臓を冷たく撫で上げる。
「ごきげんよう、お早う御座います。皆様、昨晩はよく眠れましたでしょうか」
閻魔の低く、しかし通る声に、彼岸と鶫は自然に背筋を正して応じた。
「お早う御座います」
その二人の真摯な態度を認めるように、閻魔は仮面の奥で僅かに目を細めたような気配を見せる。
「挨拶は大切です。挨拶も出来ない哀れな大人にはなりたくありませんね。あ、一人はクソガキですが」
淡々と、しかし猛毒を含んだその言葉の矛先は、明らかに清水翼に向けられていた。
「お前さあ、俺を個人攻撃しすぎじゃねえか!? 俺のこと嫌いかよ!」
翼は椅子をガタつかせて立ち上がり、顔を真っ赤にしてモニターを指差した。
「大嫌いです。いじめを自慢する程度の人間性など、殺処分がふさわしい。企画抜きにして、今すぐこの手で葬ってやってもいいくらいですよ。この企画の特性上、我々にはその実行力があることくらい理解できるかと思いましたが。やはり、ただでさえ極小の脳みそである事に加え、死滅した脳細胞では理解できませんでしたか」
閻魔の言葉は、もはや警告ではなく「死」そのものの宣告に近い響きを持っていた。
「こ、怖え事言うなよ……」
先ほどまでの威勢はどこへやら、翼は自分の首筋をなぞるような冷気を感じて、力なく椅子に座り込んだ。
「おまけにチキンとは。嘆かわしい限りです」
閻魔はそれ以上、翼に興味を示すことはなかった。
「クソガキへの罵倒はこれくらいにしまして。皆様、これから各自部屋に戻り、用意されているフリップボードを所定の袋に入れて、中身が観えないようにしたうえで、速やかに円卓の部屋まで来るように。以上です」
ブツン、と非情な音を立ててモニターの映像が消えた。
残された沈黙の中で、翼の震える吐息だけが不自然に響く。
「あいつ、俺を集中攻撃してやがる。……俺って本当に、あいつにやられるんじゃないだろうな?」
「態度を改めればいいじゃない」
鶫は、震える翼を冷めた目で見つめながら、呆れたように言い放った。
「うるせえぞ! 鶫のくせに生意気だな!」
翼は吐き捨てるようにそう叫ぶと、自分の汚れた食器を放り出したまま、逃げるように食堂を飛び出していった。
「……また、お皿もコーヒーカップも置きっぱなしにしてる」
鶫は溜息をつき、翼の残骸を見つめた。
幸いなことに、他の四人の男性陣は、翼の醜態を見て毒気を抜かれたのか、あるいは閻魔の言葉に恐怖を感じたのか、自分たちの食器をキッチンの流し台まで持って行った。
残された汚れ物を、彼岸、鶫、そして幸子の三人が手際よく洗い上げ、拭き上げていく。
後片付けを終えた三人は、それぞれの覚悟を胸に、一度自室へと戻った。
鶫が自室の扉を開けると、そこには昨晩自分が魂を込めて記した「文字」の書かれたフリップボードが横たわっていた。
彼女は一つ、長く重い溜息をつくと、用意されていた所定の黒い袋にそれを滑り込ませた。
袋の感触は驚くほど重く、まるで誰かの、あるいは自分自身の命の重みを引き受けているかのように感じられた。
鶫は黒い袋をしっかりと抱え、意を決して部屋を後にした。
運命の「中間選定」が、円卓の部屋で彼女を待っている。
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