第二十一章:断罪の宣告と、三人の静寂
「うお!? また突然出て来やがったな、この化け面が!」
モニターに映し出された閻魔の姿に、清水翼は椅子の足をガタつかせて飛び上がらんばかりに驚いた。
その様子を仮面の奥から冷ややかに見つめる閻魔の声は、一切の感情を排したまま、鋭い氷の刃となって翼を切り裂いた。
「そんなに驚くとは、失礼な少年ですね。まあ、いじめを自慢する程度の底の浅い人間性ですから、失礼な振る舞いは今更ですがね。将来、あの子をいじめてやったと酒の席で自慢して、自分の犯罪履歴を武勇伝として暴露する。そんな、頭が悪すぎる哀れな老害へ向かってまっしぐらに突き進む姿は、観ていて非常に愉快ですよ」
淡々と、しかし容赦のない侮蔑を含んだ閻魔の言葉に、食堂の空気が一瞬で凍りつく。
「何だと!? てめえ、調子に乗りやがって! 喧嘩売ってんのかコラ!」
顔を真っ赤にして怒鳴り散らす翼だったが、閻魔は彼を視界の端にも入れないかのように無視し、事務的なトーンで話を続けた。
「明日の朝、朝食後に円卓の部屋に集まっていただき、『中間選定』の時間とします。既に各個室にはフリップボードを用意してありますから、そちらに選んだ人物の名前を大きく書いて持って行くように。誰の名を書くかは、今晩じっくりと熟考することをお勧めしますよ」
「……いよいよやな。逃げ場はあらへんっちゅうことか」
美馬義彦が、重苦しい溜息と共に絞り出すように呟いた。
「それでは、皆様。良き夜をお過ごしください。ごきげんよう」
閻魔が言い終えると同時にモニターはぷつりと消え、食堂には再び、耐え難いほどの静寂が舞い戻った。
「けっ! 言いたいことだけ言って、さっさと消えやがって。気分が悪いぜ」
翼は悪態をつきながら立ち上がったが、彼岸はそれを受け流すように静かに腰を浮かせた。
「それでは、洗い物を済ませたら、私は部屋に戻るとします。明日に備えて、心身を整えねばなりませんからねえ」
彼岸は空になった自分のコーヒーカップを手に取り、淀みのない足取りでキッチンへと向かう。
鶫もまた、無言で彼の後に付き従うように席を立った。
「ほな、アタシも御手伝いするで。今日は美味しいステーキ食べさせてもろたし、2人にずっと洗いもんさせっぱなしやったもんな」
村井幸子が意外な言葉を発し、椅子を引いて立ち上がった。
しかし、残された4人の男性陣――翼、智弘、慎介、義彦は、飲み干したコーヒーカップをテーブルに置き去りにしたまま、一瞥もくれずに食堂を後にした。
「なんやあの人ら。今朝、鶫ちゃんが言うた事、なんも聞いとらんやんか。洗い物は女がやるべきやとでも思っとるんとちゃうか? ほんま、呆れて物も言えへんわ」
幸子が、置き去りにされたカップの群れを見て鼻を鳴らした。
彼岸はスッと迷いのない動作で歩み寄り、四人が放置していったカップを一つずつ丁寧に回収していく。
「こういうところで、その人が普段どうやって過ごしているのかが透けて観えますよね。誰かが代わりにやってくれるのが当たり前だと思っている……。透明な誰かの存在に、気づこうともしない人達」
鶫は、親戚がしてきた普段の振る舞いと重なる4人の姿に対して静かに吐き捨てると、彼岸は何も言わずに微笑み、流し台で水を出し始めた。
食堂には、協力して食器を片付ける三人の作業音だけが響き渡る。
明日の「選定」で自分たちが誰を指すのか、あるいは誰に指されるのか。
その重圧を束の間忘れさせるように、三人は黙々と、汚れを落とす作業に没頭していた。
---




