第一章:七人の生贄と沈黙の円卓
漆黒のスーツを纏い、視線を遮るサングラスで表情を完全に消した屈強な男たちの手によって、7人の男女が漆黒の施設へと運び込まれた。
案内された先は、徹底的に無駄を削ぎ落とした、白磁の壁に囲まれた無機質な円卓の間であった。
部屋の中心には、これからの惨劇を予感させる重厚な円卓が置かれ、その周囲には7つの椅子が等間隔に配置されている。
ズゥゥゥン……。
背後の巨大な防壁が閉じられる重厚な油圧音が、彼らの逃げ場が完全に失われたことを冷酷に告げた。
室内に充満するのは、加工された酸素の乾いた匂いと、互いの素性を探り合うような、粘りつくような沈黙だけである。
笠原慎介は、40代後半の衰えを隠すように、何度も額に浮いた脂汗を手の甲で拭った。
かつては詐欺まがいのコンサルティングで荒稼ぎし、タワマンの12階で虚飾の成功を謳歌していた彼も、今は群馬の片田舎で過去から隠れるように生きる身である。
30代半ばで掴んだ不当な富はとうに消え失せ、今の彼を支えているのは、スーパーのアルバイトで得た僅かな賃金と、いつ過去を暴かれて再び責め苦を負うかという怯えだけであった。
その隣で、20代後半の智弘は、背もたれに深く体重を預けて虚勢を張っていた。
アダルト漫画の成功で手にした幸運な泡銭を元手に、実力不相応なコンサルタントを気取っているが、その本質は顧客を「受講生」と見下すだけの幼稚な青二才に過ぎない。
「俺ははっきり言うタイプだから」という言葉を隠れ蓑に他人を見下してきた傲慢さは、この異常な静寂の前では何の役にも立たず、組んだ足の先が小刻みに震え続けている。
70代の成功者、美馬義彦は、古希を過ぎた身とは思えぬ鋭い眼光を、手元の円卓に落としていた。
京都のIT企業を一代で築き上げた手腕の裏には、成長のためには平気で人を切り捨て、未来ある就職活動で訪れた学生達を冷酷に泣かせて威張り散らしてきた苛烈な過去がある。
成功の影に積み上げられた数多の怨嗟を、彼は今、この沈黙の中で思い知らされているかのような、苦い表情を浮かべていた。
その向かい側に座る村井幸子は、50代後半の八つ橋工場で磨かれた、執念深いお局の顔を隠そうともしなかった。
30年以上もの間、工場で権力を振るい、若者達を自己中心的な正義感で追い詰めてきた彼女は、この状況ですら工場で振る舞っていたように「おばさんはうるさいもんや」と自己を正当化する準備を整えている。
周囲を自分に合わせようとする傲慢な気配を隠さず、苛立ちをぶつけるように不快な鼻息を鳴らした。
17歳の清水翼は、金髪を乱暴に掻きあげ、鋭い三白眼を正面のモニターへと向けていた。
都内の高校に通う不良少年としての風貌は、整った顔立ちゆえに一層の威圧感を放ち、その拳は苛立ちを隠さずに机を小さく叩き続けている。
翼の視線を避けるように、小さく肩を丸めて座っていたのは、同じく17歳の音無鶫であった。
三つ編みにされた黒髪の美少女だが、その瞳には光がなく、親戚の家での虐待や、翼たちからの執拗な迫害によって擦り切れた心が透けて見える。
お情けで高校に通わせてもらう代償としてアルバイトの給料を全額奪われる生活の中で、彼女の心はとうの昔に摩耗し、ただ嵐が過ぎ去るのを待つだけの抜け殻のようになっていた。
そして、異様な空気を纏っているのが、彼岸と名乗る40代半ばから後半の男である。
黒い作務衣を身に包んだ彼は、就職氷河期から現代のパンデミックに至るまで、社会の荒波に何度も叩き伏せられてきた苦労人であった。
しかし、その顔には、一切の憎悪や恐怖を感じさせない、不気味なほどに穏やかな笑顔が張り付いている。
カチッ。
突如として、正面の壁面に埋め込まれた巨大なモニターが起動した。
ジリジリと空気が焼けるような電子音が室内に響き、7人の視線が吸い寄せられるように、その漆黒の画面へと固定される。
誰一人として言葉を発する者はいない。
ただ、主催者から下されるであろう、命の選別の宣告を待つ、重苦しい沈黙だけが部屋を支配していた。
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