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死者選定  作者: 修羅観音


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「死者選定」プロローグ — 狂気と渇望の幕開け

「死」とは、現代社会において最も忌避され、それでいて最も強烈な輝きを放つ劇薬である。


かつては日常の隣に座していたその概念も、今やテレビやインターネットの画面からは徹底的に排除され、リアルな終焉の現場はノイズとして処理される。

放送事故という名の「死」がデジタル空間に産み落とされたとしても、プラットフォームの冷徹な検閲によって、それは瞬く間に消去される運命にある。


だが、拒絶されればされるほど、人々の底知れぬ好奇心は熱を帯び、禁忌の裏側に潜むエンターテインメント性を嗅ぎ取ってしまうのだ。

倫理という名の薄皮一枚で包み隠されたその欲望は、誰かの絶望や、逃げ場のないおどろおどろしい醜態を栄養として、より凶悪な刺激へと姿を変える。

そこに、権力者のエゴと大衆の金欲が複雑に絡み合えば、それはもはや抗いようのない巨大な経済的旋風へと変貌を遂げる。


「国民の皆様、これより新たな時代の幕開けを宣言いたします。これは、究極の民主主義であり、最も純粋なエンターテインメントです」


政府が主導する未曾有の国家プロジェクト、『死者選定』の施行が告げられた時、日本全土は凍りついたような静寂の後、爆発的な熱狂に包まれた。

無造作に選抜された「7名」の男女が、閉鎖空間の中で「この中で誰が死ぬべきか」を互いに選別し合うという、正気とは思えぬ凄惨な儀式。


広報が流れた瞬間、街ゆく人々は一様に「自分だけは選ばれませんように」と神に祈り、その臆病な指先で、誰が選ばれるのかを検索し続けた。

誰もが、自分以外の誰かが必死に命を乞う姿を、安全な特等席から眺めることを心待ちにしていたのだ。


「誰が死ぬのか」「どんな断末魔を上げるのか」——。

そんなドロドロとした期待がネットの海を埋め尽くし、莫大な額の金が動き、国の経済指標は皮肉にも右肩上がりを描き始めた。


ウィィィィィン……


重厚な油圧音を響かせ、何処かもわからない場所にそびえ立つ漆黒の施設「セレクション・タワー」の巨大なゲートがゆっくりと開いた。

周囲は、遠巻きに事の顛末を凝視する野次馬と、中継を行う無数のドローンによって埋め尽くされている。

冷たい海風が吹き抜ける中、一台の装甲バスが静かに停車した。


プシューッ!


圧縮空気が抜ける音と共に、タラップが降りる。

そこから降り立ったのは、年齢も職業もバラバラな、しかし一様に顔色の悪い7人の男女だった。

彼らこそが、日本中の欲望という名の生贄として選ばれた「選ばれし7人」である。


「……ここが、俺達の死に場所だってのかよ」


一人の青年が、震える声で呟いた。

その言葉は、誰の耳に届くこともなく、夜の静寂へと吸い込まれていく。

施設の内部は、病院のような清潔感と、刑務所のような無機質さが同居した異様な空間だった。

彼らの足音が床に響くたびに、死へのカウントダウンが刻まれていくような錯覚に陥る。


カツーン、カツーン……


7人は、中央に設置された円形のテーブルを囲むように配置された椅子へと誘導された。

天井に設置された無数の高感度カメラが、彼らの毛穴の一つ一つ、瞳の奥に宿る絶望の火までをも、全国へと配信し始めていた。


「……ようこそ、『死者選定』へ」


天井のスピーカーから、感情を排した合成音声が響き渡る。

その瞬間、7人の間には、昨日まで隣人であったはずの人間を、ただの「排除対象」として認識し始めるという、逃れようのない悪意が伝染していった。


誰が死ぬべきか。

なぜ自分が生きていなければならないのか。


その醜くも切実な問いが、今、血塗られた幕を上げる。


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