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女王の呪い唄  作者: 西季幽司
第二部「志尊の告解」
33/34

三番唄②

 遅い昼食を済ませて屋敷に戻ると、門前に安達が待っていた。

「今、お時間、よろしいでしょうか?」と聞く。

「ダメだと言っても、無理矢理、話し込むんでしょう」

「はは。まあ、そうですね」

「だったら、手早くお願いします」

「了解しました。では、立ち話も何ですので、中に入ってよろしいでしょうか?」

「ああ、まあ。鍵はかけていませんから、どうぞ入ってください」

 応接間に案内すると、お茶も出さずに「話って何ですか?」と切り出した。

「いえね。志功氏の遺体があった書斎のことなのです」

「書斎がどうかしましたか?」

「ご存じの通り、廊下には防犯カメラが設置してあって、窓には鍵が掛かっていました。出入りは出来ましたが、密室になっていました」

「それで?」

 回りくどい。何を言いたいのだ。

「窓の鍵はクレセント錠と呼ばれる、ごく一般的な半月状のツメを回して窓枠に取り付けた鍵受けに差し込んで開かなくする鍵です」

「ああ、そうですね」

「この鍵のハンドルの部分を調べてみたのです。そしたら、指紋が無かったのです」

「・・・」

「変でしょう。志功氏が窓を閉めたのなら、志功氏の指紋が残っているはずです。志功氏は手袋など、していませんでしたから。何故、鍵に指紋が残っていなかったのでしょうね」

 それは勿論、指紋が残らないように気をつけながら鍵を閉めたからだ。

「さあ、分かりません」と惚けておいた。

「こういうことでしょう。犯人は部屋の中から窓の鍵をかけた。恐らく指紋が残らないように、ハンカチでも使ったのでしょうか。だから指紋が残らなかった」

 う~ん。安達の指摘通りだ。俺は咄嗟に袖口をつまんで、指紋が残らないように気をつけながらクレセント錠を回した。その際、功兄の指紋を拭き消してしまった。

「窓の鍵に指紋が残っていなかったことが、そんなに大事なのですか?」

「はい。志功氏が殺害された時、窓は開いていた。そう思います。犯人は窓辺に志功氏を呼び寄せて、殺害したのかもしれません。そして、犯人は遺体発見のドサクサに紛れて窓に鍵をかけて密室にした」

 こいつ、密室の謎を解明してしまったようだ。

 いや、待てよ。そうだ。考えてみれば、功兄の遺体を発見した後、俺は直ぐに天音医師を呼んでいる。天音医師と一緒に橋本弁護士もやって来た。美晴も、安達夫婦も、それに、いつの間にか隆俊叔父も来ていた。俺だけじゃない。そのことを安達に伝えた。

「そうですね。その中の誰かが志功氏を殺害したと考えて間違いないでしょう」

「僕は違いますよ」と言ったが、安達に無視された。

 俺のこと、疑っているのだ。

「防犯カメラの映像に拘り過ぎると、事件の全体が見えなくなってしまう。私はそう考えます」

「そうですか」と曖昧に頷いておいた。

 安達は「今日はこの辺で」と言った後、「ああ、そうそう。もうひとつ」とまた、名探偵みたいなことを言った。

「何ですか?」といらいらしてしまう。

「ほら、庭にあった足跡、覚えていますか?」

「ええ、まあ」

 庭に残っていた足跡を鑑識が採取していた。俺の足跡だと思った。そこで、功兄の靴を俺の靴だと言って安達に渡しておいた。

「あなたの靴と照合させてもらいましたよ」

「そうですか」

「あなたの足音でした」

「えっ⁉」

 どういうことだ。功兄は庭に出ていたのか⁉ マメな志功だ。朝から庭で水まきをしていたとしても不思議ではないと思ったが、どうやら、その通りだったようだ。

「あなた、庭で何をしていたのですか?」

「いや・・・俺は・・・」

 考えろ! 頭を働かせろ!

「あなた――」と安達が言いかけるのを遮って、「ああ、そうだ! 靴、あれ、功兄の靴でした。うっかり間違えました。ほら、DNAとか、何とかで誰の靴なのか判別できるのではありませんか? あれ、功兄の靴です。きっと水やりに庭に出たのでしょうね」と言った。

「間違えた!? あの靴は志功さんの靴・・・」

 安達が残念そうな表情を浮かべた。俺を追い詰める切り札になるとでも思っていたのだろうか。

「すいません。僕の靴、持って行って照合してください」

 そう言って、安達を三和土まで引っ張って行くと、俺の靴を持たせた。

「照合が終わったら、靴はお返しします。また来ますよ」と言い残して、安達は去って行った。

 残された時間はそう無いようだ。やつが事件の真相に辿り着くのに、そう時間はかからないだろう。

 あの日、約束の時間より早く屋敷にやって来たのは俺と隆俊叔父だけだ。結局、二人の内、どちらかが犯人だという結論にたどり着くだろう。

 一刻も早く、隆俊叔父には行方不明になってもらわなければならない。

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