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女王の呪い唄  作者: 西季幽司
第一部「幽霊坂からの招待状」
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遺言状②

「さて、遺言状の公開が一段落したところで、事件関係者がこうして集まっておられますので、捜査状況について少々、お話させてください」

 橋本弁護士に代わって、安達が壇上に上がる。一体、何が始まるのかと、皆、壇上に注目した。

「阿舎利志功氏はこのお屋敷の書斎で殺されました。胸をナイフで一突きされ、殺害されたのです。一体、誰が阿舎利志功氏を殺害したのでしょうか? 阿舎利志功氏に恨みを持っていた人物、或いは、阿舎利志功氏が亡くなることで得をする人物、それは誰だったのでしょうか?」

 安達は最初に俺の方を見た――ような気がした。

「阿舎利志尊さん、あなたは志功氏の実の弟だ。当然、お兄さんが亡くなれば、あなたは莫大な財産を相続することができる。志功氏を殺害する動機としては十分だ」

 俺は「確かにそうかもしれませんね。敢えて否定はしませんよ。ですが、別に今じゃなくても良いでしょう。慌てて功兄を殺す意味が分からない」と反論してやった。

「そうでしょうか? あなたのこと、調べさせていただきましたよ。あなたは自由人だ。大学を卒業して働きもせず、父親が残してくれた遺産を食い潰しながら生きている。仮想通貨に手を出したのが大失敗でしたね。慎ましく生きていれば、一生、食うには困らない資産をお持ちだったのに、あれで、どれだけ資産が吹っ飛びました? 七割? 八割ですか?」

 くそう。よく調べてやがる。

「悠々自適に見えて、あなた、お金に困っていた。お兄さんに泣きついたそうですね。でも、断られた。お兄さん、言っていたそうですよ。あなた、頭が良いし、行動力もある。何でもいい。ぶらぶらしていないで、何かにチャレンジしてもらいたい。そうすれば、きっと成功するはずだと」

 功兄、そんなことを言っていたのか。

「だからと言って兄を殺したりなんてしませんよ。金に困って、功兄に相談したのは事実です。確かに断られましたけどね、最後はやっぱり兄弟です。金を出してくれるに決まっている」

 俺がそう反論すると、安達は「まあ、そうでしょうね」とあっさり矛先を治めた。良かった。あのことはバレていない。

「さて、高田さん。あなた、仕事で志功氏とトラブルになっていたそうですね?」

 次のターゲットは高田涼介のようだ。

「仕事で衝突することなんて、よくあることですよ。そんなことで人を殺していたら、世の中、殺人事件だらけになってしまいます」

「まあ、そうでしょうね。では、渚さんの件はどうです? 随分、可愛い娘さんがいらっしゃるようですね」

 渚は高田涼介、香澄夫妻の一人娘だ。子供の頃に会ったきりで、もう長いこと会っていない。今は高校生くらいだろうか。

「渚が何か?」

「いえね。ほら、窪田美晴さん。先ほど、橋本弁護士からご紹介のあった阿舎利志功氏の遺言にもあった通り、芸能界デビューが決まって、志功氏個人は勿論、会社を挙げてバックアップする体制が整えられていました」

 安達は何を言いたいのだろう?

「渚さんも芸能界デビューを目指しているという噂をお聞きしたものですからね。志功氏が美晴さんに肩入れすることに、あなたは不満だった。窪田美晴さんは、確かに会社と縁のある春野駒子さんの姪っ子です。ですが、志功氏と血縁がある訳ではないし、言ってみれば赤の他人です。赤の他人を支援するくらいなら、もう少し、親戚である自分の娘を支援してもらいたかったのではありませんか?」

 そんな裏事情があったのか。

「馬鹿らしい」と涼介が一笑に付す。「そんなことで人を殺しますか?」

 まあ、その通りだ。言いがかりに等しい。

「そうですか? 志功氏が亡くなり、あなたは次期社長の筆頭候補となった。社長になれば、志功氏の敷いた路線を変更し、会社を挙げて自分の娘を売り込むことだって出来る」

「殺人罪で捕まれば、全て水の泡じゃないですか。娘の芸能界デビューだって、夢に終わってしまう。そんなことで人は殺しませんよ」

 涼介が断言すると、「まあ、そういうことにしておきましょう」と安達はあっさり追及の手を止めた。そして、「それでは菅野天音さん」と天音医師に向き直った。

 次の犠牲者は天音医師のようだ。

「志功氏は、あなたのクリニックをアゼリ・グループの指定病院から外そうとしていた。指定病院から外されると、病院の経営に大きな問題が出てしまいます。だから、志功氏にはいなくなってもらいたかった」

 天音医師はちらと俺の顔を見た。いやいや、情報ソースは俺じゃない。

「別に指定病院だからと言って、社員の方、全てが診察に訪れる訳ではありません。うちでは扱えない病気もありますので、その際は、専門病院を紹介しています」

「そうですね。ですが、会社が費用を負担する、年に一度の健康診断はどうです。指定病院でないと、精算が面倒だったりする。やはり指定病院を外されるのは、痛手なのではありませんか?」

「まあ、健康診断は確かにそうです」と天音医師は素直に認めた。「だからと言って、志功さんを殺したりなんかしませんよ」

「そうかもしれません。ですが、問題なのか、何故、志功氏があなたのクリニックを指定病院から外そうとしていたのか――ではありませんか?」

 確かにそうだ。その理由は俺も知らない。

「・・・」天音医師が沈黙する。

「あなた、その色香で先代の志経氏の時からアゼリ・グループに取り入った。志功氏とも変わらぬ関係を築いていたはずなのに、それが揺らぎ始めた。何故です?」

「色香で取り入ったなんて、あんまりなおっしゃり方、刑事さんと雖も許せません」と天音医師が眉を吊り上げる。

「これは失礼しました。では、何故、志功氏に指定病院から外されようとしていたのですか?」

「志功さんから、指定病院を外されかけていたという、そんな事実はございません」

「志功氏にバレてしまったからではありませんか?」と安達が言うと、「・・・」と天音医師が沈黙した。

 その姿を見て、安達が爆弾を投下する。「おや? 流石にご自分の口からは言えないということですか。いいでしょう。では、私から申しましょう。あなたと高田涼介氏が深い関係にあることが、志功氏にバレてしまった」

「ええっ!」と声を上げたのは、俺だけでは無かった。隆俊叔父も橋本弁護士も、安達の発言に声を上げて驚いた。

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