表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女王の呪い唄  作者: 西季幽司
第一部「幽霊坂からの招待状」
19/34

遺言状①

 事件から一週間が経った。

 橋本弁護士が遺言状を公開すると言うので、隆俊叔父、高田涼介、美晴、天音医師に橋本弁護士と、涼介の妻、香織さん以外、一週間の面子が顔をそろえた。しかも、何処で聞きつけたのか安達刑事まで「私も傍でお聞きしてよろしいですか?」とやって来た。

 身内の話なので断ろうとしたが、涼介が「構いませんよ」と言うものだから、安達が参加することになった。

 お節介なやつめ。

「事件から一週間ですね」

「初七日に当たりますから、故人を忍びましょう」といった会話が交わされる。

 一同、応接室に集まった。志功の遺言状が公開されるとあって、皆、興味津々の様子だ。隆俊叔父などは、関係がないだろうに、「早くしろ」と催促する始末だった。何を期待しているのだろう。

 かつて春野駒子がここでインタビューを受けていた。広い応接室には一段、高くなっている場所があって、ステージのようになっている。

 橋本弁護士はステージに上がると、「皆さん、お揃いですね。本遺言書は私、橋本が故、阿舎利志功氏よりの依頼を受け、故人立ち合いのもとで作成したものです。民法の規定に則り作成された法的効力を持つものです。では、故、阿舎利志功氏の遺言をここに読み上げます」と口火を切った。

 場に緊張が走る。

「ひとつ、阿舎利志功氏名義の銀行預金は全て阿舎利志尊氏が相続するものとする。志尊さんには後程、正確な金額をお教えします」

 俺は「うん」と鷹揚に頷いた。まあ、当然だろう。

「ひとつ、阿舎利志功氏が保有していた不動産、このお屋敷と目黒にあるマンションですが、このお屋敷は阿舎利志尊氏、目黒のマンションは窪田美晴氏が相続するものとする」

「まあ!」と美晴が声を上げた。

 目黒のマンションは志経が投機目的で購入したものだ。

「志功氏は美晴さんの芸能活動を全面的にバックアップするつもりでした。目黒のマンションは美晴さんが東京で芸能活動を行う時の拠点として丁度、良いと考えていたようです」

 美晴は春野駒子の姪っ子として芸能界デビューが決まっている。俺も美晴に頑張ってもらいたい気持ちに変わりはない。目黒のマンションは少々、惜しかったが、美晴が使ってくれるなら、それで良いと思った。

「ひとつ、阿舎利志功氏が保有していたアゼリ・グループの株式は財団法人『アゼリ会』に寄贈され、管理されるものとする」

 この発表には「えっ!」、「おおっ!」といくつも驚嘆の叫びが上がった。俺もその一人だ。「何だって⁉」と声を上げてしまった。

「財団法人『アゼリ会』には公益事業の他に、美晴さんの芸能活動の支援を行ってもらいたいというのが志功氏の意思でした」

 待て、待て、待て。株式を寄贈だと。ふざけるな。一体、いくらになると思っているんだ。冗談じゃない。

 色々、言われるであろうことを予測していたのか、橋本弁護士が続けて言った。「財団法人『アゼリ会』は既に設立されており、株式の寄贈につきましては、志功さん、生存中に既に手続きを終えています。厳密には遺産に含まれていません。その点、ご了解ください」

「アゼリ会とは何だ⁉」これは隆俊叔父だ。

「アゼリ会は――」と橋本弁護士は、一人の人物の名前を上げた。経営のカリスマと呼ばれている大物経済人だ。その人物が代表となって管理、運営する財団法人だということだ。アゼリの発展の為に、株主として積極的に助言を行うと言う。

 彼が経営する会社とアゼリとは直接、取引がない。志功がどうやって、その大物経済人と知り合ったのか分からなかったが、「彼ならば、アゼリの株式などには興味はないだろうから、アゼリの将来を思って適切なアドバイスをしてくれるでしょう」と言う橋本弁護士の言葉は理解できた。

 理解はできたが腹が立った。俺の最大の遺産がどこの誰とも知れない人物のもとに行ってしまったのだ。

「俺に黙って勝手なことをしやがって」と隆俊叔父が憤慨していたが、俺も全く同じ気持ちだった。

 高田涼介は涼しい顔をしていた。アゼリの役員として知っていたのだ。志功と違って、涼介は顔が広い。父親は確か大手都銀の幹部だ。カリスマ経営者と親しくしていても不思議ではない。背後で糸を引いていたのは涼介かもしれない。

「遺言の公開を続けます。ひとつ――」

 志功が持っていた宝飾類や骨とう品、絵画などについて、誰が相続をするのか橋本弁護士が読み上げていったが、もう興味がなかった。

 どれもはした金だ。俺が欲しかったのはアゼリの株だ。志功の資産のほとんどはアゼリの株なのだ。志功の持ち株を相続できていれば、俺の将来はアゼリの大株主として安泰だった。

 橋本弁護士の話を上の空で聞きながら、俺はぎりぎりと歯ぎしりしていた。

「以上、故人の遺志は法に則り処理されます。尚、遺言の執行者として、私、橋本が指定されております」と言って、橋本弁護士は遺言の公開を締めくくった。

 皆、無言だった。それぞれ考えていることは違っただろうが、志功が遺言した内容を噛みしめていた。

 沈黙を破ったのは部外者の安達だった。

「おや、皆さん。遺言書の内容を聞かされていなかったみたいですね」と無神経に言う。

「知らん! 大体、あの若さで遺言状なんて書いていたと思わないだろう。違うか?」と隆俊叔父が俺に言った。

 俺が内容を知っていて、黙っていたと怒っているのだ。

「僕も知りませんでした」

「あんな遺言を残す前に、何とか言えば良かっただろう」と俺を責める。

 大体、叔父である彼に志功の遺産は関係ない。何を期待していたのだ。

「阿舎利さん。甥っ子である志功氏の遺産は、あなたに関係ないのではありませんか?」と俺が言いたかったことを安達が言ってくれた。

 グッドジョブ!

「ふん」と隆俊叔父が黙り込む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ