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女王の呪い唄  作者: 西季幽司
第一部「幽霊坂からの招待状」
16/23

示談金②

 相変わらず夜中になると何故か目が覚める。そして、一階の廊下から足音が聞こえて来る。昼間は至って静かなので、夜中だけ聞こえるなんて、明らかに変だ。

 いずれ建築の専門家に見てもらい、足音の正体を解明してもらわなければならない。心霊現象、特に階段から転落死した志経の亡霊の仕業だなんて、そんなこと、思いたくなかった。

 要は、目を覚まさなければ良いのだ。

 俺は天音医師を訪ねて、睡眠薬を処方してもらうことにした。

 菅野天音が経営するスガノ・クリニックは市内の目抜き通りの一角にある。四階建てのビルと五階建てのビルが連結した形になっており、広々とした駐車場を併せ持っている。

 これも全てアゼリの金だと思わずにはいられない。

 予め電話をしてあったので、天音医師が院長室で待っていてくれた。

「志尊さん。珍しいわね」と天音医師が半場、嫌味で出迎えた。

 そうだ。志経や志功と違って、俺に天音さんの色気は通用しない。天音さんを訪ねるのは、本当に具合が悪い時だけだ。

「そこに掛けて」とソファーを勧められる。どうやらここで診察してくれるようだ。

「睡眠薬を処方してもらいたいだけです」

「不眠症じゃないでしょう。睡眠薬はダメね。睡眠導入剤かしら」

「あの屋敷に寝泊りするようになってから、夜中に目が覚めて困っているんだ」

「あら、一階の廊下から足音でも聞こえるの」と天音さんが言ったものだから、ドキリとした。

「・・・」

「図星みたいね」

「何故、分かるんです?」

 廊下の足音の話は誰にも言っていない。

「志功さんが、そう言っていたから」と天音が言った。

「功兄が?」

「夜中に一階の廊下から足音が聞こえて眠れない。睡眠薬を処方してくれと言って、ここに来たの」

「それで?」

「定期的に睡眠導入剤を処方して上げていた」

「そう。あの屋敷、老朽化しているからね。一階の廊下の下に配管でもあって、それが原因で音が鳴るのかもしれない」

「志功さんは、あれはお兄さんの幽霊じゃないかって言っていたわよ」

「馬鹿馬鹿しい」

「そうね」と天音さんは憐れむような眼で俺を見た。

 この女、何を知っているのだろう? 功兄から何か聞いたのだろう?

「ところで天音さん。功兄はおたくを会社の指定病院から外そうとしていたそうですね?」

 爆弾を投下してやったが、天音さんはまるで動ぜずに「あら、そう」と軽く受け流した。

「そうなったら、大変だ。だから、功兄を殺した?」

「まさか。アゼリさんの指定病院を外されたからと言って、うちはダメになったりしません。十分、やって行けます。志功さんを殺して捕まったんじゃあ、割に合わない」

 計算高い女だ。

「功兄との間で、何かあったのですか?」

「別に、何も。橋本弁護士にでも、聞いてみては?」と意味深なことを言った。

「橋本弁護士に?」

「うちはアゼリさんの指定病院ですから、色々、噂が流れて来ますから」

 どういう意味だ? 結局、天音さんは何も教えてくれなかった。

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