72 悪役令嬢のお礼
目を覚ますといつもと違う天井で呆然としていると、扉を叩かれる。
「パトリシア様、失礼致します」
私は身体を起こす。そうだ、昨日はお城に泊まったんだった。
部屋へ案内してもらった後、入浴の手伝いをしてもらって、さらにマッサージまでしてくれた。まあ多分それで寝落ちしちゃったんだけど
「おはようございます、お着替えをお持ちしました」
時計を見ると11時を指しているため、おはようという時間ではなかった。
「ありがとうございます。遅くまで寝ていてすみません」
「お疲れのようでしたし、大丈夫ですよ」
当然のように着替えを手伝ってもらったが、先程まで着ていたネグリジェを含め、何故女性ものの服が…もしかして、カイルが女装に目覚めたとか?
「良くお似合いです。こちらはカイル殿下がパトリシア様のためにご用意されたんですよ」
「私のために?」
そういえば、昨日のドレスもだけどサイズは私にぴったりだった。
「では、私はこれで失礼しますね」
侍女が部屋から出ていってしまった。私はどうしたら良いんだろう。帰るにしても馬車の手配とかも…そんな事を考えていると扉を叩かれる。さっきの侍女だろうか、私が扉を開けると
「おはようパトリシア、良く眠れた?」
カイルがやって来た。寝起きでこの顔はちょっと胃がもたれそうだ。
「おかげさまで、カイル様本当にありがとうございました」
「お礼はキスで良いよ」
カイルは爽やかな笑顔でそう言った。そんなに軽々しくするものなのか?でも、この前おでこにしてきたな。
「ご冗談はさておき、後日何かお礼をさせてくださ…」
キュルキュルとお腹が鳴ってしまった。昨日の夜から何も食べてなかった。恥ずかしい…
「ふふ、一緒にお昼にしようか」
昼食は私が泊まらせてもらった部屋に運ばれてきた。
「あの…エリオットとミシェルは?」
二人も泊まることになっていると聞いていたけど
「二人はもう帰ったよ」
私が寝過ごしたせいで、二人にちゃんとお礼を言えなかった。
「私と二人で食事をしているのに、他の男の名前を出すなんて」
カイルは少しムッとした顔をしている。なんか怖いし話しを変えよう。
「…あの後、どうなったんですか?」
「大丈夫だよ。パトリシアの誤解はちゃんと解けたし」
本当に良かった、私が何を言われても良いけど、家名が傷つく真似はしたくなかったから。
「パトリシアは良い友人を持ったね」
「え?」
「ステラ嬢達だけがずっとパトリシアの無実を主張していたよ」
そうだ、あのとき周囲の人間はすぐに私のことを悪く言い出した。最初こそ変な子だと思ってしまったが、ステラ達と友人になれて良かった。
「パトリシア…これ」
カイルがハンカチを取り出し、渡してきた。ハンカチを開くと、私がカイルに貸していたネックレスが出てきた。
「ごめんね、返すのが遅くなってしまって」
返ってきたのは良いんだけど…
「カイル様さえ良ければ、このまま持っていてください」
同じデザインの物を貰ってしまったし、お古とはいえ、少ししか使っていないし
「良いのかい?……嬉しい」
カイルが満面の笑みを浮かべている。そんなに気に入っていたんだ。
それにしても
「カイル様には色々と頂いてばかりですね」
ドレスやアクセサリーとかもだけど、昨日の件も助けてくれた。
「そうかな?でも、私もパトリシアから沢山貰っているよ」
私がカイルに?ネックレスしか渡してないけど…
「でもまだ、一番欲しいものは貰えてないんだけどね」
一番欲しいものって何だろう。王族だから望んだものは手に入れられそうだけど。
「いつか…全部貰うつもりだけど」
カイルがニコッと笑った、たまに見せる目が笑っていない笑顔ではないのに少し恐怖を感じてしまった。
昼食の後、軽く散歩をしていると馬車が停まっていた。
「残念だけど、もうお別れの時間だね」
うちの馬車ではないため、カイルが手配をしてくれたのだろう。
「荷物は侍女にまとめさせたけど、もし何か忘れ物があったら教えて」
「ありがとうございます」
カイルはお礼はキスで、とか言っていたけど一応しておくべきなのかな?そういえば、前に私が怪我をしたときにアリシアとセシルがおまじないと言ってキスをしてくれたこともあった。
この世界では多分キスは挨拶みたいなもの、それならお礼のキスもおかしくはないってことだよね。
私はカイルの手を借りて、馬車に乗った。
「カイル様…」
「ん?どうしたの」
カイルの両肩を掴む。
「…え?」
私はカイルの頬にキスをした、と言っても触れるだけだからほぼノーカンだ。それでもやっぱり、恥ずかしいものは恥ずかしい。
「出してください」
私は少し進んでから扉を閉める。
みんなこんな恥ずかしいことを平気な顔をしてやっていたなんて…まあ、カイルは何とも思ってないだろうな。
「カイル殿下、そろそろ中にお入りください」
「…私…今日死ぬかもしれない」
「なんと、すぐに医者を呼びます」




