断罪の後
夜会は急遽お開きとした。私は父上への報告を近衛騎士に任せ、足早にパトリシアのもとへ向かう。
「エリオット、パトリシアは?」
パトリシアを驚かせるわけにはいかないため、扉をそっと開けて入る。
「やっと終わったんだ」
エリオットはソファに座ったまま、目線だけをこちらに向けている。
「トリシャちゃん寝ちゃってるんだね」
パトリシアはエリオットの肩に頭を乗せて眠っている。泣いていたのか、目元が少し赤くなっている。
私はパトリシアの隣に座り
「エリオット、ご苦労だったね。パトリシアは私の肩で寝かせるからもういいよ」
と言った。
「せっかく寝ているんだから無理に動かさない方が良いと思うんだけど…」
エリオットの言っていることは正しいけど、大切な婚約者が他の男の肩で眠っているのを許せるほどの器量は持ち合わせていない。
「起こさないようにやれば大丈夫だよ。」
「…ん」
「カイル様がうるさいからトリシャちゃんが起きちゃったじゃん」
パトリシアはゆっくりと瞬きをしている。
「パトリシア、もう大丈夫だよ」
私がそう声をかけると、パトリシアはエリオットの袖を掴む。
…私はパトリシアを怖がらせてしまったのか
「トリシャちゃん、怖い思いをさせてごめんね」
ミシェルが勝手にパトリシアの頭を撫でている。
「ううん、私こそエリオットから話を聞いていたのに…二人とも驚いてしまってごめんなさい」
…私達が怯えさせたことには変わりはないのに、謝るべきはパトリシアではないのに
「こうなる前に手を打っておくべきだった。パトリシア不甲斐ない私を許して欲しい」
私はパトリシアの手を握る。
「顔を上げてください。私は…大丈夫なので」
そう言ったパトリシアは貼り付けたような笑みを浮かべる。
「今日は遅いし、泊まっていくと良いよ。エリオットもミシェルも泊まっていくし」
そのために王宮から馬車を送ったのだから。
「そんな、急には…」
「大丈夫、フローレス公爵には伝えてあるよ。それに部屋はすでに用意してあるから、侍女達に案内させよう」
侍女を呼び、パトリシアを部屋に案内させた。もう少しそばにいたかったが、今はゆっくり休んでもらうのが一番だ。
「パトリシアを部屋から出したってことは、ラッセル伯爵令嬢の話でもするの?」
エリオットは相変わらず察しが良い。
「ポリー=ラッセルはパトリシアのドリンクに媚薬を入れていたんだよ」
「は?何でそんな事を…」
エリオットが顔を歪める。
「あの女はね、媚薬を飲んだトリシャちゃんをロジャー子爵に介抱させて既成事実を作ろうとしていたんだよ」
ミシェルは言葉遣いこそ軽いが、怒りに満ちた表情で話している。
「それが、パトリシアが口にしなかった事で作戦が狂ったのだろうね。自作自演でパトリシアを陥れようとした」
仮に上手くいっていたとして、私がポリー=ラッセルと婚約するわけではないのに性格も頭も悪いんだな。
「それで、二人はどうするの?」
私はまだ直接沙汰を下せる立場ではない、父上が決めることだ。
「爵位の剥奪で済むか、国外追放だろうね」
父上はお優しい方だ、ある程度温情はかけるかもしれない。叔父上のときも、王位継承者である私を殺そうとした事で本当は叔父一家が処刑される予定だったが、その事実を知らなかった叔母上と年端のいかない従兄妹達は国外追放で許された。今回は怪我人はいないのもあってそこまで重い罪は科されないだろう。
「生温いね…殺しちゃえば良いのにあんな奴等」
普段ならミシェルの発言を諌めるエリオットも何も言わずにいる。
「とりあえず、今日は休もうか。部屋に案内するよ」
私も父上に話をしに行かなくてはいけない。




