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断罪の時間

パトリシアをエリオットに任せたあと、会場はざわついている。そんな中、ポリー=ラッセルは私の服の裾を掴んできた。

「怖かったです」

鬱陶しい事この上ない。

「そう、パトリシアはもっと怖い思いをしたのにね」

思わず声に出してしまったが、聞こえてはいないようだ。

「え?」

「で、()()()()()()()かな?ポリー=ラッセル嬢」

「私は…パトリシア様にドレスを理由にグラスを投げられて…」

私が味方についたとでも思ったのか、ペラペラと事の経緯を話してきた。

「あなたがドリンクを持ってきたのに、パトリシアにグラスを投げられたの?」

「それは……私からグラスを奪って…」

しどろもどろになっている。

「私はどういうつもりかって聞いたんだよ。ポリー=ラッセル」

「…え」

「ラッセル伯爵が私のことを嗅ぎ回っていたのと関係があるんだよね?」

財務官をやっているラッセル伯爵は、私の身辺を調べているようだ。大方、パトリシアとの関係が気になっていたのだろう。

「…私は知りません」

顔が青くなっている時点で自白しているようなものだけど、あくまでしらを切るようだ。

「パトリシアはドレスの色がかぶっただけで、怒るような子ではないけど選んだ私の責任だね」

「…今何て?」

「ん?ああ、あのドレスは私が彼女にプレゼントとしたものだよ」

「…何で」

ポリー=ラッセルは私の礼服をまじまじと見ている。気づかれない程度に、パトリシアのドレスと同じ刺繍の入ったベストを仕立ててもらった。

「それに、これ分かる?」

首につけていた、パトリシアから借りたネックレスを見せると、見覚えがあったのか目を見開いている。

「何で!?カイル様はパトリシア様の事が嫌いなはず」

私がパトリシアを?全く、誰がそんな噂を流したんだか…

「今日だってずっと睨んでいましたよね、前回の夜会のときも」

私が睨んでいたのは、パトリシアの周りに群がる身の程を弁えない連中に対してだ。

「そうだね、でも私が睨んでいたのはあなたのこだよ」

「だから、一部始終は全部見ていたんだよ」

本当はパトリシアの傷つくところは見たくなかったが、仕方ないラッセル伯爵家を徹底的に潰すためには。

「君がわざと転んだことも、自らグラスの中身を被ったことも全部ね」

私の発言で、皆が手のひらを返したようにパトリシアを擁護し始めた。ポリー=ラッセルはというと俯いてブツブツと何かを言っている。

「…何で、何で…あんな気持ちの悪い公爵家の女を」

「田舎の男爵家の継母と義妹、呪われた侯爵家の義弟…穢らわしい」

「カイル様、この女…殺してもいい?」

近くにいたミシェルにも聞こえていたのだろう。ギリギリと音が聞こえるぐらい拳を握りしめている。

本当は冷静なエリオットを残しておきたかったんだけど、ミシェルをパトリシアと二人きりにさせるわけにはいかないから。

私もパトリシアの大切な家族を侮辱されて黙って入られない。

「パトリシアもフローレス公爵も、爵位や出自関係なく人を慈しむ心を持った人達だよ」

「あなたは関わる人間を爵位で選ぶみたいだね」

ポリー=ラッセルは黙っている。そろそろ、連れて行かせるか

「カイル様、ドリンクから媚薬のようなものがが検出されました」

近衛騎士が慌てた様子でやって来た。調べさせていたのはパトリシアの持っていたグラスだ。

「君がパトリシアに持ってきたものだよね」

「…私は持ってきただけ、あの女が自分で入れたんじゃ…」

近衛騎士がポリー=ラッセルを抑えている。

パトリシアが警戒心の強い子で良かった。ドリンクは口にしていないようだし、もし飲んでいたら今頃…

ポリー=ラッセルが意味もなく媚薬を盛るはずもない、薄々分かってはいたけど…

「あのとき二人の近くにいたのはあなたですよね…ロジャー子爵」

ロジャー子爵はパトリシアを狙っている。セシルの剣の稽古に付き合っていたときにセシルから聞いていた、そのおかげで警戒はしていたんだけど…

「あなたはポリー=ラッセルと手を組んで何をしようとしていたんですか?」

「…何のことでしょう」

ロジャー子爵は腕を組み、目を細めている。

「協力してくれたら、パトリシアとの仲を取り持ってあげる…とでも言われたのかな?」

「確かに、彼女とお近づきになりたいと思って言いましたが、彼女とはだいぶ前から親密な仲ですから。そのような言葉には乗りませんよ」

だいぶ前から親密…ね、面白いことを言うな。

「そう、前回の夜会のことを言っているのなら滑稽ですね。あのとき、パトリシアはあなたに追いかけられて私に助けを求めに来たんですよ」

「少々調子に乗ってしまい、パトリシア様を怒らせてしまったんですよ。まさかカイル様に助けを求めていたとは」

「何故、パトリシアが私に助けを求めてきたか分かりますか?」

本当は助けを求めてきたというより、たまたま隠れた先が私のマントだっただけなんだけど。

「私が彼女の婚約者だからですよ」

ロジャー子爵は先程までの余裕たっぷりだった表情が、一気に無に変わる。

「本当はこんなところで発表する予定ではなかったんだけど…」

「ポリー嬢どういう事だ」

私が話しているというのに、まあ面白いものが見られる。

「あなたは、私とパトリシア様の仲を取り持ってくれると言っていただろ。婚約者がいただなんて聞いて…」

「うるさい…うるさいうるさいうるさい、うまくいけばあの女はあんたのものになっていたのに…」

「あの女がすぐに媚薬を飲んでたら良かったのに、そうすればうまくいったのに」

「あんな女、()()()()に死んでれば良かったのに」

「減らない口だね、舌を切っちゃおうか」

我慢の限界だ。

「ひっ」

ポリー=ラッセルの顔掴む。

「カイル様、気持ちは分かるけど舌を切ったら話せなくなるよ、顎を外しとこうよ」

ミシェルはそう言うが、切った舌を再生させることぐらい容易い、でもこの女に使うものではない。

「処罰は追って下そう。連れて行け」

近衛騎士達により、ポリー=ラッセルとロジャー子爵は連れて行かれた。

噂好きの人間達はこの件をすぐに広めるだろう。そうなれば、ラッセル伯爵家は終わりだ。


はぁ、疲れた。早くパトリシアに会いたい。


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