秘密を共有する者
カイルの指示でパトリシアを別室に連れてきた。会場を出たときから、パトリシアの身体はカタカタと震えている。
「…ない、私じゃ…」
「パトリシアじゃないことは知ってる、だから大丈夫」
パトリシアは俯きながら涙目になっていたが、俺の言葉を聞いて俺を見上げている。
「…でも、カイル様もミシェルも」
グラスを回収するときのミシェルの表情と、俺へ指示を出したときのカイルの表情に怯えているのだろう。でも、あのときミシェルは
「大丈夫、僕たちに任せて」
と言っていた。パトリシアには聞き取れなかったのか、それとカイルのあれは俺に向けた視線だ。
二人きりになっても変な気を起こすなよという圧だ。
「…良かった」
パトリシアはその場にへたり込み、瞳からポロポロと涙をこぼしている。
そもそも、ここは罪人が運ばれるような部屋ではない。部屋は暖められているし、お茶やお菓子も用意されている。
それに、仮に罪人だとしたらを近衛騎士でなく、俺に連れて行かせるなどありえない。
「パトリシア、とりあえずソファに座ろう」
俺はハンカチでパトリシアの顔を拭いていると
「安心したら腰が抜けて立てなくなっちゃった」
パトリシアは恥ずかしそうに笑った。
「パトリシア、俺の首に手を回して」
パトリシアは不思議そうな顔をしているが、恐る恐るという感じで首に手を回してきた。そのまま身体を持ち上げて横向きに抱く。
「へ?あ、エリオット!?重いでしょ降ろしてもらって大丈夫だから」
降ろすも何も数歩歩けばソファに座れる。それに…
「軽いから大丈夫」
パトリシアは俺のことを非力だと思っているのか、確かにカイルに比べたら筋力は劣るかもしれないけど、それなりに鍛えてはいるんだけどな。
「…ありがとうエリオット」
「どういたしまして」
俺もパトリシアの隣に腰をかける。部屋は暖かいとはいえ、パトリシアの格好は寒そうだ。しかし、俺の上着を貸したもんならカイルになんて言われるか分からない。辺りを見渡すとチェストの上置かれているブランケットを見つけた。
「肩に掛けておきなよ、お茶淹れるからちょっと待ってて」
用意されていたのがいつなのかは分からないが、お湯は沸かしたてかと思うほど熱い。カイルが逆算して準備を進めていたのか、もしくは使用人が何回か替えに来ているのかは定かではないが、俺はお茶を淹れてカップをパトリシアの前に置く。
パトリシアはカップを持ち少し口をつけてから
「エリオットがいてくれて本当に良かった」
と言って笑った。いつもと変わらない笑顔のはずなのに…俺の心臓が跳ねる。
「私ね、あの話をしたこと少し後悔していたの」
あの話とは夢の話のことだろう。俺に話したことを後悔しているのか…
「忙しいエリオットに余計な心配をかけさせてしまったかもって」
心配か、そんなこと気にしなくて良いのに
「心配ぐらいさせてよ」
「ふふっ、エリオットは本当に優しいわね」
「でもね今回の事は多分、自業自得。書き換えなければ起こることのなかった事だから…」
パトリシアはそう言って俯いてしまった。
パトリシアが何をしたというのか、何故悪意を向けられなければならないんだ。書き換えたから何だよ、カイルを庇って怪我を負ったり、自分の領地でもない村の人達を救ったりと善行を積んでいるのに
「約束しただろ…一緒に書き換えようって、俺はパトリシアに幸せになって欲しいよ」
幸せになって欲しいという気持ちに嘘はない。俺が幸せにしたいと言えたら…
「エリオットだから話すんだけど…私とカイル様が殺されかけたじゃない?あれね、夢の中だと王妃様とお腹にいたシャルル様が狙われていたの」
「それって」
「うん、私が書き換えた事で変わってしまったの」
つまり、パトリシアの夢で起こることはパトリシアが書き換えたことによって対象が代わるのか。
「私ね、夢の中だと十八歳で死ぬの」
「え…」
パトリシアが殺されるかもしれないということはなんとなく気づいていたが、そんな早いなんてもうあと三年を切っている。
「でもね、私ね。最近思うの他の誰かが死ぬぐらいなら私でもいいかなって…」
血の気が引くのを感じる。
「馬鹿なことを言うな!!俺は…俺はパトリシアに死んでほしくない」
「…ごめんなさい。でも、私がいなければ起こらなかった事もあるし、みんなに迷惑かけちゃったから…」
パトリシアの瞳が揺れる。泣くのを堪えているのだろう。
「前にも言ったけど、みんなパトリシアの事が大好きだよって。だから、迷惑だなんて誰も思ってないし、大好きだから守りたいんだ」
カイルとミシェルはもちろん、俺だって…
俺がパトリシアの頭を撫でると、パトリシアは声を抑えて泣き始めた。
今回の事は、パトリシアの夢と関係なく起こったようだった。狩猟大会のときと同様にカイルが関係している。
パトリシアを失ってしまうぐらいならいっそ…
「ねぇ、パトリシアこんなときに言うべきではないんだけど…俺と結婚してよ」
「自給自足の平民暮らしとは行かないし、うるさい義妹もいるけど……君がこのままカイルの婚約者でいて辛い思いをする所…俺は見たくないよ」
パトリシアを抱きしめる。折れそうなくらい細い身体…今よりずっと小さいときにカイルを庇ったんだ。
俺は卑怯だな、カイルは俺を信頼してパトリシアを俺に任せたのに…
パトリシアは黙っている。今までの関係性が崩れるかもしれない…
「…ごめん困らせるつもりはなかったんだ。忘れて、…って寝てるし」
パトリシアはさっきまで泣いていたのに、泣きつかれたのか眠っている。
起きていたら…いや、考えるのはやめておこう。
カイルもミシェルもいない、これぐらいなら許してくれるだろうか。
パトリシアは俺の肩に頭を乗せて眠っている。俺は肩に掛けてあるブランケットが落ちないよう腕を回している。
パトリシアが俺だけに打ち明けてくれたんだ、俺がパトリシアを守らないと




