70 悪役令嬢とカイルからの贈り物
カイルが忙しくなると言ってから、三週間経った頃、王宮から夜会の招待状が届いた。そして、ドレスと装飾品に靴…それから、カイルからのメッセージカードも。
メッセージカードには
『今度の夜会で着てほしい』
と一言だけ。
夜会当日、ロジャー子爵の件もあって正直夜会には行きたくないが、ドレスまで用意されているのに行かないという選択肢はない。
「ドレスの色が違うだけで、雰囲気が変わりますね」
アンナが私の手にグローブをつけながらそう言った。
カイルから貰ったドレスは、淡い紫のチュールドレスだ。オフショルダーというより、白いシアー生地の袖がついたデコルテが強調されたものだ。今まで着ていたドレスは胸元が強調されたデザインの大人っぽいものだったが、カイルからのドレスは可愛らしいデザインのため、色合いはともかく好みのデザインだ。
「お嬢様、アクセサリーも頂いたものにしますか?」
レーネがアクセサリーを持ってやってきた。
あれこの箱見覚えが、これって私が買ったネックレスのお店の…まさか、貸したネックレスを壊してしまったとか?それで弁償してくれたのかな?
箱を開けると、デザインこそ同じだったがサファイアではなくアメジストに変わっていた。間違えたのかな?
アンナは
「ドレスにぴったりのネックレスですね」
と笑った。
髪型はハーフアップに、カイルに貰ったビジューなのか本物の宝石なのかは分からないが、キラキラとしたヘッドドレスをつけられた。
「可憐な妖精みたいで素敵です」
マリーが私の周りを一周して拍手している。妖精って…ちょっと恥ずかしいな。
今日はフローレス家の馬車ではなく、王宮の馬車が迎えに来る。そのため、エスコート役もいない。
「姉さん、そのドレスどうしたの?」
馬車が来るのを待っていると、セシルに声をかけられた。
「カイル様から頂いたものなんだけど…もしかして、似合わない?」
「いや、すごく…か、可愛いけど。今日はカイル様に近づかない方が良いよ」
カイルに?でも、お礼は言わないとだよね。
「王宮から馬車を送るってのも怪しいですよ」
アリシアがムッとした顔をしてやってきた。
「お姉様、絶対帰ってきてくださいね」
アリシアにギュッと手を握られる。二人が何を心配しているのかよく分からないまま、迎えの馬車が来た。
王宮の馬車はフローレス家の馬車よりも乗り心地がよく、危うく寝てしまうところだった。
王宮に着いて会場に入ると、カイルと目が合った。カイルはにこやかな笑みを浮かべている、ドレスのお礼を言いに行かないと…
私はカイルの所へ向かおうとしたが、呼び止められてしまった。
「パトリシア様」
振り返ると、扇で口元を隠した茶髪に緑の瞳の令嬢がいた。
「私はラッセル伯爵家のポリーです」
「フローレス公爵家のパトリシアです」
私も自己紹介をすると、ポリーがクスクスと笑う。
「存じ上げておりますよ」
そういえば、私のこと呼び止めてくれたときに名前を呼んでくれていた。
「そんなことより、そのドレスとても素敵ですね」
ポリーが私のドレスをじーっと見て笑う。
「ありがとうございます。ポリー様も素敵ですよ」
ポリーは明るい紫のドレスに、白いレースの扇を持っている。
とにかく私のドレスから話題を逸らさないと、どこの仕立て屋かを聞かれても分からないし
「いつもはブルーのドレスばかりなのに、どうして今日はその色に?」
なんて説明したら…頂いたものって言ったら誰から?ってなるかもしれないし
「綺麗な色ですよね、生地を見たときに一目惚れしてしまって」
「そうなんですね、私はてっきりカイル様をイメージされたものかと」
良かった何とか誤魔化せたかな、カイルから贈られたとは思われてはいないみたいだけど、カイルをイメージしたって思われるのは…確かに紫と白を基調としているドレスだけど。
「パトリシア様はご婚約はされないんですか?」
もうドレスへの興味は失ったのか…話の切り替えが早いな。
「良い縁があれば良いんですけど」
私は笑って誤魔化す。
「前の夜会でロジャー子爵と楽しげにお話されていましたよね」
ポリーにはあれが楽しげに見えていたのか…
「とてもお似合いでしたよ」
この子はどういうつもりで言っているのかな?何も考えていないようにも見えるけど…
「私、飲み物取りに行ってきますね。待っててください」
ポリーがウェイターの所へ行った。飲み物だけ受け取ったらすぐに離れようかな。
「お待たせしました。どうぞ」
私はポリーからグラスを受け取る。お酒だったら怖いし、飲むふりをして離れよう。
「ありがとうございます、友人を見つけたので失礼します」
「待ってください…キャーッ」
ポリーが私の腕を掴もうとするも、ドレスの裾を踏んで転んでしまった。ポリーの持っていたグラスも割れて、中身もドレスにかかっている。
「大丈夫ですか?」
私が手を差し出すと
「ごめんなさい…ごめんなさい」
とポリーが顔を隠して泣き始めた。ポリーの悲鳴で人が集まってきた。ひそひそとポリーに対する同情と私を非難する声が聞こえる。
完全に誤解されている。この状況はまずい、どうすれば…




