ダリルとフローレス兄妹
68話の前の話です
パトリシア様の護衛騎士になってから、アリシア様とセシル様ともお話する機会が増えた。
アリシア様は可憐で儚げな、か弱い少女といった印象で。セシル様は賢く、冷静で俺よりも大人っぽい子だと思っていた…
その日は、パトリシア様とお茶の約束をしていた。
「お兄様、まだまだいますよ。お姉様を苦しめる害虫が」
「ああ、早く袋に入れろ」
稽古が早めに終わり、身支度を整えて庭に向かうと何やら不穏な会話が聞こえてきた。
大木の方で、セシル様が袋を広げているのが見えた。すると、木に登っていたのかアリシア様が木から降りてきた。そしてアリシア様は大木に思いっきり、蹴りを入れている。
「よし、これで大丈夫そうですね」
「あとは庭師に、軽く葉や枝を剪定してもらうか」
二人はそう言ったあと、表情が一気に険しくなった。
「でも、一番の害虫をどうやって駆除します?毛虫と同じぐらい簡単なら良いんですけど」
「僕が早く社交界に出れれば…」
アリシア様の行動と言動には少々驚いたが、虫の駆除で困っていると分かり、俺は二人に声をかけた。
「どんな虫ですか?俺も手伝いますよ」
「ダリル、今の話どこから聞いて」
セシル様が珍しく、少し動揺している。
「お二人が袋に毛虫を入れながら、パトリシア様を苦しめる害虫がどうのってところからです」
「そう、でも一番の害虫ってのはダリルに駆除できるものじゃないよ」
セシル様は伏し目がちにそう言った。一体どんな虫なんだろう、村にいた頃は普通に虫がどこにでもいたから平気なんだけどな。
「特徴だけでも教えてもらえませんか?」
「白い髪に紫の瞳の、身長は恐らく170cm後半から180cmぐらいの…」
体長のデカさに驚いたが、よくよく聞くとカイル王子殿下の特徴だ。
「あの…もしかして、カイル王子殿下の…」
「そうですよ。カイル様こそお姉様に近づく一番の害虫です」
アリシア様は屈託のない笑顔でそう言った。王族を害虫呼ばわりして大丈夫なのだろうか
「言っておきますが、ダリル…あなたも害虫予備軍なんですよ」
アリシア様は笑顔だったのが、スンっと真顔になり俺の方を見る。
「ところで、ここには何か用事があって来たんだよね?一体どんな用事なのかな?」
セシル様が冷たい目でこちらを見てきた。下手に誤魔化しても良いことはないだろうし
「パトリシア様に誘われて、お茶をする予定で…」
「は?ダリルはつい最近、夜会で姉さんのエスコートをしていたよね」
エスコート…あの日のパトリシア様は一段とお綺麗で、それに馬車の中ではパトリシア様に手を握ってもらって…思わず顔に熱が集まる。
「先に駆除しないといけないのはダリルでしたね、お兄様」
「そうだね」
やばい、逃げないと…
「みんな揃って何してるの?」
パトリシア様だ、俺がホッとしていると二人は
「お姉様のために毛虫を駆除してたんです」
「二人がこれから、ここでお茶をするみたいだったから」
とさっきまでの冷たい表情と打って変わって、穏やかな表情をしている。
「そうだったのね、二人ともありがとう」
パトリシア様がアリシア様の頭を撫でている。セシル様も屈んで、撫でてもらいにいっている。
「僕達は行くね、ダリル楽しんでね」
最後の方だけ語気が強かった気がしたが、ようやく解放された。
まさか、アリシア様とセシル様にあんな一面があったとは…まあ、二人ともパトリシア様を思うが故にと言った感じだろう。
「ダリルは二人と仲が良かったのね」
パトリシア様は嬉しそうに笑う。ついさっきまで、二人に始末される所だったとは言えない。
「二人とも優しくて良い子でしょ?」
「…そうですね」
俺は言葉に詰まってしまった。二人は、パトリシア様の前だけでは良い子なのか…パトリシア様も、アリシア様が木に蹴りを入れるところは見たことはないだろうし
人は見かけによらないなと思った。アリシア様はか弱い少女ではなく、村の女の子たちよりもたくましいし、セシル様も大人っぽいと思っていたが、自ら頭を撫でられにいっている姿を見たらそんなことはないと思った。
パトリシア様は知らない、二人の裏の顔を知ってしまった俺はこのまま平穏に過ごせるのだろうか…
とりあえず、今はパトリシア様とのお茶の時間に癒されよう。




