パトリシアの夢物語
パトリシアは分かりやすい。本人はそんなことはないと思っているんだろうけど、嘘をついても申し訳なさそうな顔をするからすぐに分かる。
だから、不安と哀しみが入り混じった顔で話している『夢』の話はきっと、本当にこれから起こってしまうことなのだろう。
パトリシアの話だとアリシアとカイルが結ばれて、パトリシアが殺される…かもしれない。
でも、アリシアはカイルをゴミを見るような目で見ている。カイルはというと、内心腹は立てているもののパトリシアが溺愛している妹だからと我慢している。そんな二人がこの先結ばれるようには思えない。だとすると、パトリシアが殺される心配もない…それはパトリシアがアリシアを大切にして、可愛がっていたからだ。それに…
「パトリシアは孤独でも無機質でもない。優しくて思いやりがあって…可愛いよ、そんなパトリシアの事がみんな大好きだよ」
慣れないことは言うべきではないと思ったが
「…ありがとう、エリオット」
この笑顔を見たら言っても良かったなと思えた。
書き換えたとしても、物語の結末は変えられないのか…少なくとも、俺はパトリシアに変えてもらったしミシェルだってそうだ…
「ねぇ、もっと聞かせてよ。パトリシアの夢の話」
パトリシアの『夢』には、アリシアとカイルの名前しか出てきていない。
「俺も協力するよ、一緒に書き換えよう」
パトリシアはこの話は、多分俺にしかしていない気がする。それなら、俺が協力してあげないと
「…信じてくれるの?」
パトリシアは驚いた顔をしている。
「信じるよ…だって、パトリシアは俺を変えてくれたから」
俺はパトリシアに出会わなかったら、社交界にも出なかったし、公爵家を継ごうとなんて思わなかった。
まあ、膝枕されている状態で何を言ってもカッコはつかないんだけどね
そういえば、パトリシアがカイルと婚約を解消したがっていた理由も『夢』と関係があるんだろうな。
パトリシアは前にカイルの事が好きというわけではないと言ってはいたけど、今はどうなんだろう。もし、パトリシアがカイルのことを好きだとしたら…
「パトリシアって…」
「姉さん、いる?」
俺がパトリシアに、カイルのことを好きなのか聞こうとした所に、セシルがやって来た。
俺は身体を起こそうとしたが、パトリシアは俺の頭を撫で続けている。嬉しいけど、今はまずい。
「な、エリオット様…何をしてるんですか!?」
「エリオットを寝かしつけてたのよ」
パトリシアはこのピリついた空気に気づいていないのか、呑気に答える。
「エリオット様なら大丈夫だと思っていたのに」
カイルとミシェルに警戒心剥き出しの、セシルに俺は信頼されてたのか…それって、俺はどうせパトリシアに対して、何もできないだろうって思われてたんだろうな。
「姉さん、エリオット様は成人されているんだから、寝かしつけは必要ないよ」
セシルは策士だな、カイルとミシェルはパトリシアに膝枕をされることはないんだろうな。
「エリオット、子供扱いしたわけじゃないのよ」
俺が身体を起こすと、パトリシアはシュンとした顔をしている。
「分かってるよ」
パトリシアの頭を撫でると、パトリシアは柔らかく笑って、「良かった」と言った。
その日の晩、俺は眠れなかった。
パトリシアの『夢』の話が気になって…というわけではなく、パトリシアにしてもらった膝枕の感触が忘れられなくて。もう、してもらえることはなくなってしまったが。
あのときセシルが来なければ、なんて考えてしまう自分が情けない。
これ以上、隈が酷くなったらパトリシアがまた心配してしまう。とにかく、目を瞑って深呼吸をしよう。
ダメだ、頭を撫でられた感覚まで思い出してしまった。普段、頭なんて撫でられたことはなかったから余計に…
協力するとは言ったものの、俺はパトリシアに何をしてあげられるのだろうか。




