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62 悪役令嬢は謝罪する

社交界デビューから三日後、カイルがやって来てしまった。お父様は忙しくしているため、あの日の事は聞けていない。


「僕もついて行こうか?」

「私も、私もついて行きます」

セシルが心配そうに私を見る。アリシアは私の手を握ってくれている。流石に私がやらかしたのに対する謝罪なのに、関係のない二人を連れて行くわけには行かない。

「大丈夫よ、すぐ戻るわ」

私は二人に手を振り、庭園へ向かう。カイルは何故か、応接室ではなくて庭園にいるようだ。


「お待たせして申し訳ありません」

カイルのジャケットを抱えたままお辞儀をする。

「大丈夫、待ってないよ」

口調は優しいが、如何せん目を合わせるのが怖くてどんな表情をしているか分からない。

「あの…先日の話ですが、むぐっ」

私が話を切り出そうとした瞬間、口に何かが入った。甘い…チョコレートだ。

「それで…」

私が話そうとする度に、カイルがチョコレートを口に入れてくる。謝罪もさせてくれないほど怒っているのかも…どうしよう。

「あの、もう食べられません」

私はカイルの手を掴んで止める。カイルは驚いた顔をした後、悲しそうな顔をした。

「…ごめんね、パトリシアが何を言おうとしているのか不安で…」

なんでカイルが不安に?むしろ私の方がこれからどのような罰を与えられるのかが不安なんだけど。

「私…その、本当に申し訳ありません。あの日カイル様とバルコニーに出たあとの記憶がなくて…」

「…そっか、具合は大丈夫?」

あれ?怒ってはいないのかな、暴れたりはしていないってこと?それなら良いんだけど、具合の心配をされているってことは、受け取った以外にもお酒を飲んでいたのかな

「大丈夫です。それでこれ…」

私はカイルにジャケットを渡す。私が無理矢理剥ぎ取ってしまったであろうジャケットを。

「パトリシアから返されると思わなかった…嬉しい」

カイルはジャケットを抱きしめて笑っている。何?どういうこと?

「私、カイル様に何か失礼なことをしていました?」

「……大丈夫、これは私の問題だから」

少し間があったけど、怒っていないのならアリシアの言っていた、「婚約を解消するので許してください」が使えない。

「これ、残りはあとで食べて。元々君のために持ってきたものだから」

カイルがチョコレートの箱をくれた。いくら何でも話を遮るために、チョコレートを口に突っ込んでくるのはどうなんだ。


「カイル様!!」

アリシアが走ってきた、ついてこようとしてくれていたし、心配して来てくれたのかな?

「お姉様は…いいえ、お姉様にカイル様は相応しくありません!!」

アリシアは私の前に仁王立ちし、声を大にしてそう言った。

「だから、婚約を解消するべきです!!」

これは私にとっても、カイルにとってもチャンスでは…

「アリシア…君は何を言っているのかな?」

カイルとアリシアが見つめ合っている。私、邪魔なのでは?一応謝罪はできたし、私は部屋に戻ろうかな。

「ではカイル様、私はこれで失礼します」

「パトリシア、待って」

アリシアと二人きりになるのが恥ずかしいのかな?ちょくちょく、二人で話しているのを見かけたけど今更?

「アリシア、勝手に走っていくな」

アリシアを探しに来たのか、セシルがやって来た。

「お兄様も協力してください」

アリシアはセシルの腕を掴み、カイルの前に立つ。

「お姉様は、お菓子を作ったり、薬草を育てたりするのが好きなんです。カイル様と結婚されたらお姉様の自由がなくなってしまうんですよ」

まあ、貴族の令嬢がお菓子を作ったり、薬草を育てるのがおかしいんだけどね。それにしても、アリシアがそこまで考えていたなんて…でも、アリシアがカイルと結婚したらそうなるのか…それは可哀想だな。

「私は、パトリシアに自由のない生活はさせない」

「まあ、言うだけなら誰でもできますよね」

セシルが鼻で笑った。一応王子相手だからか敬語は使っているけど、小馬鹿にしているように見える。

「それなら、結婚したら王宮にパトリシア専用の温室と調理部屋を作ろう」

流石に、国のお金でそんなこと…ってなんで私と結婚する前提で話が進んでいるんだろう。

「私はお姉様のこと事が大好きなんです。お姉様がお城で暮らすようになったら寂しいです」

アリシア…私の事をそんなに思ってくれていたなんて。こんなに可愛いアリシアに寂しい思いをさせるわけにはいかない。

「大丈夫よアリシア、私…結婚しないわ」

「え?」

「お姉様、これでお姉様とずっと一緒にいれますね」

アリシアが私に抱きついてきた。ずっとと言っても、きっとアリシアは素敵な男性と結婚してしまうんだろうな。そのときは笑顔で送り出せるといいな。

「パトリシア…」

カイルが私に何かを話そうとしたが、カイルの従者のような男性がやって来て、カイルは行ってしまった。


「姉さん、大丈夫だった?」

「ええ、怒られたりはしなかったわ」

怒るというより、落ち込んでいるようにも見えた。まあ、何はともあれ罰を与えられなくて良かった。


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