60 悪役令嬢とご令嬢
私は令嬢達と仲良くなるために、何を話そうか思考を巡らせながら近づく。すると、私が声をかける前に、一人の令嬢が私に近づいてきた。
「あなたがパトリシア様ですね」
シルバーブロンドにノーバングのミディアムヘア。私よりも濃い青い瞳の美人な女の子だ。
「…はい、パトリシア=フローレスです」
私は彼女の美しさに圧倒され、反応が遅れてしまう。
「…そうですよね。ところで、パトリシア様貴方はカイル様とどういうご関係ですか!?」
周りには聞こえない声だが、すごい気迫で顔を近づけてくる。怖い…ってか、カイルとの関係がどうのって言ってなかった?
私が固まっていると、他の令嬢が止めに入ってくれた。
「取り乱してしまい申し訳ありません。私はクランプトン侯爵家のステラ=クランプトンと申します」
彼女は一呼吸置き、自己紹介をしてくれた。それにしてもあの取り乱しよう、私は話しかけに行く相手を間違えってしまったかもしれない。
「それで、あの…」
私はカイルの名前が出てきたことに不安を感じ話を切り出そうとしたが
「私、聞きたいことがありまして…」
私が切り出すよりも先に、ステラが話を始めた。
「パトリシア様とカイル様はご婚約されていると伺っていますが、どこまで進んでいらっしゃるんですか」
小声で話してはいるが、どこか力強さを感じる口調だ。それにしても、婚約関係を知っているということは彼女の両親が話してしまったのだろう。そもそも、どこまでって何のことだ?
「ご婚約されて長いようですが、その…もう手を繋いだりしてらっしゃるんですか?」
ステラは顔を真っ赤にして私をチラチラと見ている。この子も恋バナが好きなのかな可愛いな。でも、カイルはアリシアの事が好きだからステラの期待に添えるような話は出来ないんだよね。
「私とカイル様の婚約の話は内密になっていますので、そういった恋人のような事は一切してませんよ」
私がそう言うと、ステラはシュンと落ち込んでしまった。
「そうですよね。突然話しかけて、勝手に舞い上がってしまって申し訳ありません」
「気にしなくて大丈夫ですよ。それに、私もお話したかったので」
この子、少しだけエレノアに似てる気がする。話しかける相手を間違えたかなっと思ったけど、悪い子ではなさそうだし。
「ところで、何故私とカイル様の仲が気になったのですか?」
「それは…その、私にも婚約者がいるのですが…」
ステラはまた顔を真っ赤にしてもじもじとしている。侯爵家で婚約者がいるということは、エレノア達にもいるのかな?そういう話は聞かないけど…
「10歳のときから婚約しているのですが、月に一度のお茶会以外でお会いすることはなくて、手を繋いだことも…」
ステラの声が徐々に小さくなる。月に一度が普通なのかは分からないが…カイルの来る頻度がが異常なのは分かった。まあ、勉強したりしているからというのもあるけど
「今日はその方がエスコートしてくれたのでは?」
本来婚約者がいる場合は、婚約者がエスコートをするものだし
「それはしてくれましたが、ダンスが終わった途端何処かへ行ってしまったのです」
ステラは涙目になってしまった。取り巻きっぽい令嬢達がステラをなだめている。
「失礼でなければ、婚約者の方を教えてもらえませんか?」
何かする訳ではないけど、聞いておけば調べられるかもしれないし。
「あそこでお肉料理を食べている。茶髪の…」
ステラの視線に方に目を向けると、私達と同い年ぐらいの男の子がお肉を頬張っている。そのステラの婚約者と思われる方はステラの視線に気づいたのか、こちらを見て笑っている。
私の勘違いじゃなければ、ステラの婚約者は多分中学生の男の子みたいな感じな気がする。まあ、年齢的にもこういう格式張ったところが得意でなくてもおかしくないし、食べ物に目が行く気持ちも分かる。
「ステラ様、あの私達ぐらいの年齢の男性は美しいものよりも美味しいものに目が行くものですから、そう気を落とさなくても大丈夫ですよ」
それに、さっきはステラを見て笑っているようだったし、ステラの事を避けているわけではなさそうだ。
「…そういうものですか」
私もよく分からないが、ステラの婚約者は他の令嬢に声をかけたりしているわけではなく、ただ黙々とお肉を食べているだけの年相応の男の子だ。
「ええ、ステラ様の魅力にまだ気づけてないだけですよ」
私の言葉に、取り巻きっぽい令嬢達がうんうんと頷く。
「…ありがとうございます。パトリシア様に相談して良かったです」
ステラは嬉しそうに笑った。
お肉料理を食べ終えたのか、ステラの婚約者がこちらに向かってきているのが分かったので、私は離れて見守ることにする。
「では、また機会があればお話ししましょう」
権力目当てで近づいてくる貴族達の相手をするのも嫌だし、隅の方で終わるのを待とうかなと考えていると誰かに肩を叩かれた。
「…パトリシア」
「カイルさ…」
カイルに口を抑えられ、しーっと言われた。
「ついてきて」
カイルに手を引かれ、バルコニーに連れてこられた。
「やっと二人きりになれた」
カイルは少し疲れたような顔をしている。まあ、王族は大変だよね。
「カイルお疲れのように見えますが…」
ここで休憩しようとしていたのかな?
「うん、でもパトリシアの姿を見たら疲れが吹き飛んだよ」
カイルはニコニコと微笑む。そっか、私も緊張していたけど、エリオット達に会った途端に安心したから。
「私もその気持ち分かります」
「そっか、パトリシアも…」
どうせなら、エリオットとミシェルも呼んでここで休憩するのもありだな。あ、でもテーブルにグラスが二つしか置いてない。
「パトリシア、せっかくだから」
カイルがテーブルにあったグラスを持ってきた。シャンパンかな?この世界だともう成人だから良いのか…前世ではそれなりに飲めた方だし大丈夫だよね。




